2.待つわ | ||||||||||||||
ホーム>バックナンバー2019>令和元年五月号(通算211号)令和味 長屋王の変2.待つわ
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和銅八年(715)九月、元明天皇は娘の氷高(ひだか。日高)内親王に譲位した。
伝四十四代女帝・元正天皇である。
「二代続けて女帝とは、想定外だったな」
長屋王はがっかりしたが、あきらめてはいなかった。
「なーに、女帝には後がない。皇太子は病弱だ。待てば必ず私の家系に皇位は舞い込んでくるはずだ」
養老八年(724)二月、元正天皇は皇太子・首皇子に譲位した。
伝四十五代天皇・聖武天皇である。
「で、皇太子はどなたに?」
天皇になれなかった代わりのように左大臣に昇進した長屋王が聞いた。
聖武天皇は困った。
「朕(ちん)にはまだ男の子がいない」
聖武天皇にはまだ、井上内親王などの娘しかいなかった(「ヤミ味」参照)。
「女の皇太子でもよいのか?」
「前例がありません」
「すぐに決めなればならないのか?」
「そんなことはありません」
「なら、急がなくてもよいではないか」
「はい。しかし、申しておきたいことがあります」
「なんじゃ?」
「私にはたくさんの子がおります」
「え?」
「私自身も皇孫ゆえ、皇位継承の資格を失っておりません」
「!」
「あくまでも予備の案です。そんな手もあると申したかっただけです」
「……」
「急ぐことはありません。万が一の時のために待っております」
「……」