3.土壇場で地団駄なんなんだ! | ||||||||||||||
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ある日、神泉苑(しんせんえん)で宴会がありました。
神泉苑とは、平安京の父・桓武天皇が宮城の南に造営した大宴会場です(「怨霊味」参照)。
「神泉苑で何をするんだ?」
決まっています。叙位です。叙位なんです! 帝が私に五位を授けて下さるのです!
「るんるん!
るんるん!」
私の宴会の準備にも熱が入ります。鼻歌交じりでテキパキ動き回る私を見て、帝もほめてくださいました。
「六位よ。最近、動きが軽やかじゃのう。何かいいことでもあったか?」
時の帝は、伝六十代・醍醐天皇(「受験味」「入試味」「取違味」参照)。
延喜の治で後世までその名をとどろかす、平安時代屈指の賢帝です。
「へへへ、陛下!
これからあるんですよっ!」
「そうか」
帝は含み笑いをなさいました。
私にはそれが、
(それほどまでに喜んでくれるなら、朕もやりがいがあるというものじゃ)
と、おっしゃっているように見えました。
そのとき、帝が池のほうを指差され、私にこう命じられました。
「六位よ。あのサギを捕って参れ」
「は?
サギ?」
見ると、一羽のサギが池のほとりに背中をかがめて立っておりました。どうやら眠っているようです。
「あれをですか?」
私は躊躇(ちゅうちょ)しました。
サギを捕るには、池の中に入らなければなりません。
帝は不機嫌な顔をなさいました。
「何じゃ?
捕れないと申すか?」
「いえいえ、そんなことございませんっ」
帝のつむじを曲げてしまっては、もらえるものももらえなくなります。
私は池に入り、サギに近づきました。
サギは目覚めました。私の接近に気付きました。驚いて飛び立とうとしました。
私は必死の思いで叫びました。
「動くな!
宣旨ぞっ!」
私の思いは、サギに通じたようです。
サギはおとなしく私に捕まりました。
私は帝にサギを献上しました。
帝は感心なさいました。
私にではなく、サギにです。
「それにしても何というサギじゃ。『宣旨ぞっ!』の声に従うとは……」
そして帝は、信じられないことをおっしゃったのです。
「神妙なり! このサギに五位を与える!」
こうしてサギは「五位」を与えられ、首に、
「今日より後はサギの中の王たるべし」
と書いた札を付けられて、空に放たれました。
それ以来、そのサギの種類を「ゴイサギ(五位鷺)」と呼ぶようになったそうです。
私は帝に聞いてみました。
「私は?」
帝はおっしゃいました。
「うん。御苦労であった。最大限に褒めてつかわす」
「御褒美は?」
「ない」
私は思わず、腹の底の底の底から大絶叫しました。
「サギだぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」
[2005年6月末日執筆]
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