1.機を織る美女 | ||||||||||||||
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青年っぽい男が笠狭崎(かささのみさき。鹿児島県南さつま市?)を散歩していた。
ときどきはしゃいで走ってみた。
「アハハハ!アハハハ!アハハハ!」
青年っぽい男とは、元祖天下り・瓊瓊杵尊(ににぎのみこと。邇邇芸命・天津彦根火瓊瓊杵根尊。「神々系図」参照)である。
疲れた瓊瓊杵尊は、浜辺で仰向けに寝そべってみた。
砂浜が気持ちよく、波音が心地よく、朝の涼風が最高であった。
「うふ〜ん」
瓊瓊杵尊はしばらく眠ってしまった。
どのくらいたったであろうか?
ばったんばったんばったんぎーん。
瓊瓊杵尊は奇妙な物音で目覚めた。
ばったんばったんばったんぎいーん。
「なんだ?」
瓊瓊杵尊は、うとうとと起き上がった。
ばったんばったんばったんぎいーん。
音のほうを見ると、彼を一気に覚醒(かくせい)へと導く超絶秒殺最高峰美女が機を織っていた。
(ひゃっほおーーー!!!)
瓊瓊杵尊は興奮した。
ひっくり返って、丸見えなのに、ジリジリと匍匐(ほふく)前進を開始した。
ばったんばったんばったんぎいーん。
超絶秒殺最高峰美女は、迫り来る瓊瓊杵尊に気づいたが、見なかったことにして、そのまま機を織り続けた。
ばったんばったんばったんぎいーん。
「ねえ、カノジョ〜」
声も掛けられたが、超絶秒殺最高峰美女は無視して機を織り続けた。
ばったんばったんばったんぎいーん。
(ねえー、ねえー、ねえー)
瓊瓊杵尊は超絶秒殺最高峰美女の眼前で飛び跳ねてみた。彼女の視線をさえぎって、何度も何度も飛び跳ねてみた。つまり、必死で強引で自分勝手であった。
「ぷっ!」
超絶秒殺最高峰美女はたまらず吹き出した。気づいたからには相手をしなければならなくなった。そこで彼女は壁を立てた。
「何?何の用?押し売りや勧誘は一切お断りですけどっ」
「そんなんじゃありませんて〜」
「じゃあ何?落し物?道を教えてほしいとか?沖で誰かおぼれてるから知らせに来たとか?仕事中で忙しいから、用件は手短に言って!」
瓊瓊杵尊は承知した。言われたとおりに即座に本題に入ることにした。
彼は突然、わざわざ浜のほうへ全速力で走っていくと、海のかなたに向かって大声で叫んだ。
「好きだー!」
超絶秒殺最高峰美女はチラと見やっただけで機織りを続けた。
「バカか」
ばったんばったんばったんぎいーん。
瓊瓊杵尊は、また全速力で走って戻ってくると、超絶秒殺最高峰美女に思いのたけを重ねて訴えた。
「スゲー好きっす!たまんねーっす!ハンパねえっす!っていうか、おれと今すぐ結婚してくださーいっ!」
ばたばたばた!キキーン!
超絶秒殺最高峰美女は乱暴に機織りをやめた。
で、まゆをひそめて瓊瓊杵尊に尋ねた。
「だれ?」
「え?」
「あんた、いったい、誰なのよっ?」
瓊瓊杵尊は照れた。
「そ、そんな〜、名乗るほどの者ですけど〜。君からお先にどーぞ」
超絶秒殺最高峰美女は目くじらを立てた。
「誰があんたのような不審者に、こっちから名乗らなきゃなんないのよ!だいたい私はこんな平日の真っ昼間っからナンパしてくるようなチャラチャラ男に興味はないわよっ!え?あなた、仕事は何をしてるの?ヒマそうだから、どうせまともな職業じゃないよね〜?年収はいくら?どこに住んでいるの?狩りの腕は?お父様は何者?田んぼはどれだけ持ってるの?牛や馬は何頭持ってるの?早く言ってみなさいよっ!」
「うう……。そんなん数えたことないよ〜」
「ごまかして!どーせド貧乏なんでしょ!なにその格好は?首飾りや腕輪の玉もみんな安物でしょ!見栄えだけ良くしようったって、女はだまされないわよーっ!」
「そんなつもりじゃ〜」
「とりあえず名前をお言い」
「に、ににぎ……」
「ニギニギ?」
「ニニギ!」
「ふん。そんなんどっちだっていいわ。お父様に頼んでうちの奴隷にしてこき使って、その腐った根性をたたき直してあげるから、覚悟をおしっ」
「こわい〜」