2.美女の姉はブスだった

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山の神
1.機を織る美女
2.美女の姉はブスだった
3.燃えながら出産する美女
木花開耶姫 PROFILE
【生没年】 ?-?
【別 名】 木花咲耶姫・木花佐久夜毘売・吾田津姫
・鹿葦津姫・浅間大神など
【出 身】 吾田長屋(鹿児島県南さつま市)?
【本 拠】 筑紫日向(宮崎県?)
【職 業】 山の神・子安神・安産の神
【 父 】 大山祗神
【 姉 】 磐長姫?
【 夫 】 瓊瓊杵尊
【 子 】 火明命・火闌降命・彦火火出見尊
【霊 地】 富士山本宮浅間大社(静岡県富士宮市)
ほか各地の浅間神社・子安神社など

 超絶秒殺最高峰美女の正体は木花開耶姫(このはなのさくやびめ。「神々系図」参照)であった。
 その夜、帰ってきた彼女の父・大山祗神
(おおやまつみのかみ。大山積神)が切り出した。
「さっき、天孫が訪ねてきた」
「テンソン?」
「ああ。天神族の総親分・天照大神
(「大豆味」参照)の孫だ」
 日本神話では天照大神と大山祗神は「兄弟」ということになっているが、この大山祗神は隼人の先祖とみられるので、別系統かもしれない。
「――その天孫が、おまえを妻にしたいといってきた」
「え?」
 木花開耶姫は驚いた。
「まさか、その天孫の名前って、もしかして、ニギニギ?」
「そうだ」
「……!ゲッ!あのチャラ男が天孫っ!!」
「おまえは戦争と平和とどっちがいい?」
「平和に決まっているでしょ」
「おまえがこの結婚を拒めば、我々は天照大神率いる天下無敵の天神族と戦うことになる」
「……」
「大陸伝来の最先端の武器を持つ天神族に、我々には勝ち目はない。万が一にもだ。もし戦えば瞬く間に敗れ、奴隷にされるか殺されるであろう」
「……」
「だからおまえ、天孫と結婚してくれるな?」
「……」
「一、奴隷にされる。二、殺される。三、天孫と結婚してバラ色の人生を送る。さあ、おまえはどれを選ぶ?」
 木花開耶姫は追い詰められた。
「そんなこと言われたら、するしかないでしょーがっ!」

 こうして木花開耶姫は瓊瓊杵尊と結婚することになった。
 たくさんの婚礼の品々とともに木花開耶姫は輿
(こし)入れし、つつましやかにあいさつした。
「あ、あの……。私、気が弱くて、怖がりで、何にも知らない箱入り娘のふつつか者ですけど、どうか、お手柔らかに、よろしくお願いいたします。やさしくしてねっ」
 瓊瓊杵尊は面食らった。
「なんか、昨日と全然態度が違うね」
「そんなことないですよ〜。これが私の本性ですよ〜」
「じゃあ、昨日のは?」
「幻よ。うふっ!」
 木花開耶姫が花か咲いたように微笑んで頭を下げると、隣にいた苔
(こけ)むした岩のような「おばさん」も頭を下げた。
「はじめまして〜」
 瓊瓊杵尊は不思議がった。
「この方は?付き人?」
 すると「おばさん」が否定した。
「申し遅れました。木花開耶姫の姉の磐長姫です。ぼへっ!」
 磐長姫は腐った果物のようにニトオッと笑った。
「おえっぷ!」
 瓊瓊杵尊は思わず吐きかけたが、こらえた。
「ホントに姉妹〜?実の姉妹〜?いくらなんでもこれは違うでしょ〜」
「違いませんて!母も同じの、正真正銘の実の姉妹ですっ!」
「うっそー!」
 瓊瓊杵尊は驚いたが、その後の磐長姫の言葉にはもっと驚いた。
「私も妹とともにあなたさまのもとに輿入れすることになりました。私も気が弱くて、怖がりで、何にも知らない箱入り娘のふつつか者ですけど、どうか、お手柔らかに、よろしくお願いいたします。やさしくしてねっ。ぼへっ!」
「ムリ!ムリ!ムリ!」
 瓊瓊杵尊は即拒否した。激しく首を横に振った。彼は正直であった。
「おれが結婚したのは木花開耶姫だけだ。へんなのはとっとと帰ってくれ」
「そんな……。私のいったいどこが気に入らないっていうの〜?」
「言わせるな!そのひどい顔だよ!おれは何よりも美女が好きで、何よりもブスか嫌いなんだ!ああ、そばにいるだけでムカムカする!今すぐおれの視界のはるかかなたへ消えてくれ!失せろってんだよー!」
「いやだー。そんなこと言われたら、よけいにい続けてやる〜」
「させるか!みなの者、この不美人すぎる怪物女をつまみ出せっ!」
 瓊瓊杵尊は無理やり磐長姫をつまみ出させた。
「ひどいわっ!なんて男なのっ!」
 磐長姫はうらんだ。憎んだ。そして、笑ってやった。
「ヒッヒッヒ!父が岩のような私と花のような妹をおまえに差し出した理由が分かるかしら?花のような栄華と岩のような長寿を願ってのことなのよっ!それなのにおまえは花だけを取って岩を捨てた!つまりおまえは自ら長寿になることを放棄したのよっ!ヒーッヒッヒ!ざまを見やがれ!おまえはもうすぐ死ぬのよっ!早く死にやがれってんだーっ!」
 これ以降、天孫の子孫
(つまり天皇家)の寿命は短くなってしまったという。

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