3.燃えながら出産する美女

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山の神
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3.燃えながら出産する美女

 こうして磐長姫を追い出した瓊瓊杵尊は、木花開耶姫とだけ結婚した。
「あなた〜」
「おまえ〜」
 美人は三日で飽きるというが、なぜか夫婦の「ひめごと」は一晩だけで終わってしまった。

 それでも十か月ぐらいすると、木花開耶姫は瓊瓊杵尊に報告した。
「できちゃった」
「何が?」
「赤ちゃん」
「誰の?」
「あなたの」
「……!ウッソ〜!一晩だけしかしてないのにいー!」
「しかも三つ子みたいよ。ほらー、三つ動いてる〜。ああん、今にも産まれそう〜」
「ありえねー!さてはよその子だな!おれの子じゃないんだろ!そうだ!そうに違いないっ!」
 木花開耶姫はムッとした。美顔を崩して、涙を流して悲しんだ。
「びえーん!あんまりだわっ!」
 木花開耶姫はバッと弾丸のように宮殿を飛び出していった。
「どこへ行く!?」
 瓊瓊杵尊は後を追ったが、木花開耶姫は産屋に飛び込むなり、こもって中からカギをかけて火までつけてしまった。
 瓊瓊杵尊はびっくりして産屋の戸をたたいて謝った。
「悪かった!疑ったおれが悪かった!早まるなっ!開けてくれよー!何も死ななくてもぉ〜!」
 中から木花開耶姫が泣きながら言った。
「もし、この子たちがあなたの子じゃなかったら、無事に産まれることはないでしょう!もし、あなたの子だったら、無事に生まれてくるでしょう!」

 プスプスプス。
 産屋から煙が出てきた。
 瓊瓊杵尊は騒ぎまくった。
「ワー!ワー!分かったから開けろおー!開けてくれやー!」
 それでも木花開耶姫は戸を開けてくれなかった。
 ていうか、彼女はもうそれどころではなくなっていた。
「ああっ、ううん……、出る〜!」
 出産が始まっていたのである。
 ボワッ!メラメラ!
 産屋に炎が上がったとき、最初の子が産まれた。
「ううーん!」
 すっぽーん!
「ほえあ!」
 赤ん坊は産まれたばかりなのにしゃべり始めた。
「母上、御苦労様です。私は天神の子です。名は火明命
(ほあかりのみこと。火照命。海幸彦?。「神々系図」参照)。父上はいずこに?」

 産屋の炎はますます激しく燃え上がった。
 それが最強になったとき、二番目の子が産まれた。
「うううーん!」
 すっぽんぽーん!
「ほえあ!ほえあ!」
 赤ん坊は産まれたばかりなのにしゃべり始めた。
「母上、御苦労様です。私は天神の子です。名は火闌降命
(ほのすそりのみこと。火酢芹命・火進命・火須勢理命。海幸彦?)。父上はいずこに?」

 産屋の炎は盛りを過ぎて弱まってきた。
 下火になってきたとき、三番目の子が産まれた。
「ううううーん!」
 すっぽんぽんぽーん!
「ほえあ!ほえあ!ほえあ!」
 赤ん坊は産まれたばかりなのにしゃべり始めた。
「母上、御苦労様です。私は天神の子です。名は彦火火出見尊
(ひこほほでみのみこと。天津日高日子穂穂手見命・火折命・山幸彦。「海神味」参照)。父上はいずこに?」

 ぼーぼー!ずずーん!
 ぐっちゃーん!ぼろぼろぼろ!
 ついに産屋は燃え崩れた。
「うわー!」
 瓊瓊杵尊は絶叫した。頭を抱えて嘆き悲しんだ。
「さくやー!許してくれー!」
「御覧くださいましたか?私の純潔のアカシを」
 木花開耶姫の声を聞いて、瓊瓊杵尊は泣き止んだ。
 顔を上げると、木花開耶姫が何事もなかったかのように三つ子を抱いて立っていた。
「おお、生きていたかー!」
 瓊瓊杵尊は爆涙して木花開耶姫や三つ子をかき抱いた。
 三つ子も争うように父に抱きついてきた。
「父上ー!」
「逢いたかったぜよー!」
「万感こもごもいたるいたる〜!」
 瓊瓊杵尊はさも当然のように言った。
「そうだよ。おまえたちはおれの子だよ。そんなことは初めからわかっていたさー!おれが疑ったって?アハハッ!いったい誰がそんなことを言った?そのような猜疑
(さいぎ)心は、最初からおれの中には微塵(みじん)もなかったのだー!アハハハー!」

[2009年7月末日執筆]
参考文献はコチラ

※ 木花開耶姫の産んだ子は、双子説や四つ子説もあります。
※ 三つ子の名前や産まれ順には異説があります。
※ 大己貴神
(おおなむちのかみ。大国主神)の子にも火明命という神がいます(「怪談味」参照)
※ 天忍穂耳尊
(あまのおしほみみのみこと。天照大神の子。瓊瓊杵尊の父)の子にも天火明命(あまのほあかりのみこと)がありますが、これらは同一人物の可能性があります。

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