2.隠れろー!

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日本の選択
1.逃げろー!
2.隠れろー!
3.耐えろー!

 俺は隠れ場所を探した。
 仏殿に唐櫃
(からびつ)があった。
 大きな箱で、人一人が余裕で入れそうな大きさだった。
(ここなら隠れられる!)
 俺は喜んだ。
 しかし、隠れられる場所というものは、兵たちにも見つかりやすいということである。
 俺は躊躇
(ちゅうちょ)した。
 見つかってしまってはおしまいなのである。危険な場所には隠れるわけにはいかなかった。

 バーン!
 寺の門が破られた。
 ドドドドド!
「ワーワー!」
 馬のひづめの音や兵の歓声が響いてきた。
(やばい!境内に入ってきた!)
 もはや猶予はなかった。
 俺は焦った。
 唐櫃は三つあった。
 二つはふたが閉まっており、一つはふたが開いていて、中身のお経の束がはみ出ていた。
(よし!)
 俺は決心した。
 開いていた唐櫃の中に入って伏せると、そのままふたはせず、お経の束をかぶって隠れた。
(どうか、見つかりませんように……)

 バラバラバララッ。
 しばらくして、誰かが仏殿に入ってきた。
「よし、堂の中も捜せ」
「はっ」
「わしはこっちから捜す。お前たちは仏像の裏だ」
「了解」
 数人いるようだ。
 ドカッ
 バキッ。
 ごそごそっ。
 ヤツらは手当たり次第捜し始めた。
 俺は恐怖で震えていた。

 兵たちはプツプツ言い始めた。
 俺以外にも、何か別のものも探しているようだった。
「それにしても、金目のものが何もねえ寺だな」
「ボロ寺だからな。そんな期待はするな」
「何を言っているんだ。金目のものは大塔宮その人ではないか」
「そうだった!ヤツさえ捕まえることができれば大出世間違いなしだった」
「大塔ちゃーん。どこにいるのー?出ておいでー。ボクたちがかわいがってやるからさー」
 兵たちはドッと笑った。
 俺は気が気でなかった。

 とことことこ。
 兵の一人が俺の隠れている唐櫃のそばまで大接近してきた。
「おい」
「なんだ?」
「これらは何の箱だ?」
 どうやら連中は三つの唐櫃に気付いたようである。
「一つふたが開いている箱がある。お経入れのようだ。あとの二つもそうだろう」
 兵の一人がお経の束を薙刀
(なぎなた)の先でトントンたたいた。
 それは、俺が頭にかぶっていたお経の束だった。
(ひえー!たたかれてるー!)
 俺は息を殺した。

「怪しいな。人が入れそうな箱だぞ」
 俺は緊張した。
 リーダーらしき男が命令した。
「ふたを開けろ!」
 ずりずりずり〜、ぱかっ!
 ずりずりずり〜、ぱかっ!
 俺の隣にあった二つの唐櫃のふたがほぼ同時に開けられた。
 兵たちは中をのぞき込んでいるようだ。
「やはり、ただのお経入れのようです」
「お経に紛れて隠れているかもしれない。お経を全部引きずり出して箱をひっくりかえせ」
「ははっ」
 むんず、ぽいぽいぽい!むんず、ぽいぽいぽい!すっからかーん!ごろりんこ〜。
 むんず、ぽいぽいぽい!むんず、ぽいぽいぽい!すっからかーん!ごろりんこ〜。
「誰もいませーん」
「こっちもいませーん」
「なんだつまらん」
「でも、箱はまだもう一つありますよ」
 俺はギクリとした。
 残っているのはもう、俺の隠れている唐櫃だけなのだ!
(もう終わりだー!)
 俺は観念した。
 見つかったら即自害する覚悟で、短刀の切っ先を胸にあてた。

 すると、リーダーらしき男が言った。
「ふたの開いている箱など調べるまでもない。普通、三つある中で一番見つかりやすい箱には隠れないだろう」
「ですよねー」
「ほかを捜そう。時間の無駄だ。手柄を人に渡すな」
「了解」
 兵たちは仏殿を出て行った。
(危なかった〜)
 俺は胸をなでおろした。
(でも、まだ戻ってきて、詳しく調べるかもしれない……)
 そう思った俺は、さっき彼らがひっくり返した唐櫃の中に移動して隠れ続けていた。

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