1.流浪→泥棒 〜 冥府魔道

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解散→選挙 〜 郵政民営
1.流浪→泥棒 〜 冥府魔道
2.潜伏→決断 〜 刺客依頼
3.決行→決着 〜 標的襲撃

 山の中を乱暴に乳母車を押して歩く人相の悪い小汚い牢人(ろうにん。浪人)があった。
 乳母車には誰も乗っていなかったが、少年二人が牢人の後をついて歩いていた。
「ちゃん! 腹減った」
 少年の一人が言ったが、牢人は黙っていた。
「ちゃん!」

浅原為頼 PROFILE
【生没年】 ?-1290
【出 身】 甲斐国(山梨県)?
【本 拠】 不定
【職 業】 武士→牢人→悪党(刺客)
【役 職】 無職
【位 階】 無位
【 父 】 浅原頼行(小太郎)
【 子 】 浅原光頼・浅原為継
【仇 敵】 平 頼綱
【標 的】 伏見天皇父子
【没 地】 内裏内夜の御殿
(京都市上京区)

 その時、数人のガラの悪そうな連中がバラバラ現れると、牢人たちの行く手を阻んだ。
 連中の親分が不審そうに牢人に聞いた。
「あんた、ひょっとして、霜月騒動
(「揉事味」参照)の残党じゃなーい?」
 牢人は平然と答えた。
「だったらどうする?」
「死んでもらう!」
 言うより先に連中の手下どもが切りかかってきた。
「でやー!」
「ヤロー!」
「くたばれー!」
 牢人はすばやく刀を抜くと、
 じゅば!
 ばし!
 どか!
 瞬時に迫り寄る手下すべてを切り伏せてしまった。
「ぐわー!」
「やられたぁ!」
「ぴくぴく!」

 親分は分が悪くなった。
 そこで、汚い手を使った。
 少年の一人を捕まえると、その首元に刀を突きつけて牢人を脅迫したのである。
「刀を下ろせ! さあ! 下ろさないとコイツの命はないぞっ!」
 牢人は動じなかった。
 刀を下ろすどころか、ブンと血のりを振り払うと、その切っ先を親分の鼻先に突きつけてきたのである。
「何だこれは! 脅しじゃないぞ! 本当に刺すぞ!」
「刺してみろ。刺したときが貴様の最期だ」
 親分は恐怖した。錯乱した。狂乱した。
「きっ、貴様、子供が死ぬんだぞ! 貴様の大事な大事な息子が死ぬんだぞ! 本当にいいのか!? いいはずがないっ!」
「我々父子は冥府
(めいふ)魔道を行く者だ。そのような情けはとうに捨てている」
 ズブ! ぐりぐり!
「ぎゃー!」
 親分は崩れ落ち、しかばねになった。
 牢人は再び山道を歩き始めた。

 牢人の名は浅原為頼(あさはらためより)
 浅原氏は清和源氏甲斐発祥の名族・小笠原
(おがさわら)氏の支流だが、霜月騒動で主家が没落したため土地を奪われ、流浪生活に追い込まれてしまったのであった。
 息子二人が追いついてきた。
 長男は光頼
(みつより)。次男は為継(ためつぐ)
 二人は口々にせがんだ。
「ちゃん。腹減った」
「何か食わせろー」
「我慢しろ。武士は食わねど高楊枝
(たかようじ)だ」
「腹が減ってはイクサもできないよ!」
「土地も仕事もないのに毎日こんなブラブラしてて、生活できるかっ!」
 息子たちの言い分はもっともだった。
 為頼は考えた。息子たちに尋ねた。
「おまえたちは、生きたいか?」
「うん!」
「生きたい!」
「悪いことをしてでも、生き続けたいか?」
「おう!」
「当たり前だ!」
 為頼は苦渋の決断を下した。
「仕方がない。こうなったらこれからはヒトサマのものを頂戴して生活するしかあるまい。いいか! これからは自分のものは自分のもの! 人のものも自分のものだっ!」
「わーい!」
「無尽蔵だぜぇー!」

 こうして浅原父子はドロボーになった。
 日本全国津々浦々を泥棒行脚し、強盗・窃盗・暴力・殺人・放火、何でもこなすオールマイティー凶悪父子になった。
 やがて、オールマイティー凶悪父子の悪名は天下にとどろいた。
 全国指名手配され、
「見つけ次第殺せ」
 と、幕府からお触れが出るまでの有名人になった。

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