1.血祭!黒沼伴清!! | ||||||||||||||
ホーム>バックナンバー2014>1.血祭!黒沼伴清(くろぬまともきよ)!!
|
新田義貞 PROFILE | |
【生没年】 | 1301or1300-1338 |
【別 名】 | 小太郎 |
【出 身】 | 上野国に新田荘(群馬県太田市) |
【職 業】 | 武将 |
【役 職】 | 武者所頭人・越後守・播磨守 ・左中将・右衛門佐・治部大輔 |
【 父 】 | 新田朝氏 |
【 妻 】 | 安東氏・一条経尹女(勾当内侍)ら |
【 子 】 | 新田義顕・義興・義宗ら |
【兄 弟】 | 脇屋義助ら |
【部 下】 | 船田義昌・大館宗氏ら |
【主 君】 | 北条高時→後醍醐天皇 |
【墓 地】 | 安養寺(群馬県太田市) ・称念寺(福井県坂井市) ・金竜寺(茨城県竜ヶ崎市) |
【霊 地】 | 藤島神社(福井県福井市) |
「ニーチャン、カネ出せ」
たかられた男は黙っていた。
「カネ出せよ、ニッタちゃん」
それでも男は沈黙していた。
「聞こえねえのか?カネを出せよ!新田義貞!」
新田義貞は顔を上げた。
「理由は?」
道理であった。
すごんでいた男の後ろから、もう一人穏やかそうなのが出てきた。
「申し遅れた。拙者は北条一族・金沢出雲介親連(かねざわいちものすけちかつら。または紀親連・池田親連・明石親連)。こちらは御内人・黒沼彦四郎伴清(くろぬまひこしろうともきよ)。幕府では上方で起こった過激派武装組織による暴動を鎮圧するため、新たに北条泰家(ほうじょうやすいえ)様を総大将とする討伐軍を派遣することにした。そのための戦費が必要なのだ」
北条泰家は鎌倉幕府のボス・得宗北条高時の弟である(「北条氏系図」参照)。
元弘三年・正慶二年(1333)閏二月、鎌倉幕府によって流刑にされていた後醍醐天皇が隠岐を脱出し、伯耆の住人・名和長年(なわながとし)に迎えられ、船上山(せんじょうさん。鳥取県琴浦町)で挙兵した。
また、同年一月に播磨苔縄(こけなわ。兵庫県上郡町)城で挙兵していた赤松則村(あかまつのりむら。円心。「赤松氏系図」)が三月に京(京都府京都市)を目指して山城へ進撃、山崎(やまざき。京都府大山崎町)や八幡(やわた。京都府八幡市)などで六波羅探題軍と交戦した。
そこで幕府は名越高家(なごえたかいえ)・足利高氏ら討伐軍を派遣したが(「名越・足利氏系図」参照)、四月二十七日に高家は山城久我畷(こがなわて。久我縄手。京都市伏見区)で戦死してしまったのである。
鎌倉時代の早馬(はやうま)は、京〜鎌倉間を三日で伝達したという。
つまり、高家戦死の報は、五月までに鎌倉に伝えられていたと思われる。
「過激派武装集団は先帝(後醍醐天皇のこと。鎌倉幕府は一方的に後醍醐天皇を廃して光厳天皇を擁立していた)を仰いで士気が高まっている。特に赤松なる者は六波羅軍と激闘を繰り返し、帝都制圧をうかがっているという。ならず者どもに帝都を落とされてはかなわぬ。そのためには新手の援軍が急務なのだ」
義貞は言った。
「気持ちは分かるが、ついこの間、追加の戦費の徴収があったばかりだ。幕府は上野・下野・常陸・安房・上総・武蔵の六か国に兵と米を出すように命令してきた」
「ああ、確かに徴収した。しかしそれは前の討伐軍のものだ。新手の援軍には別にカネがいるのだ。そこで富裕層の多い上野国新田荘(にったのしょう)世良田(せらだ。群馬県太田市)に縁のある貴殿には、特別に六万貫を五日以内に納めていただきたい」
義貞の弟・脇屋義助(わきやよしすけ)は驚いた。
「六万貫!しかも五日以内でだと!無茶苦茶ではないか!」
義貞は断った。
「確かに世良田は長楽寺(ちょうらくじ)の門前町として栄えている。が、金持ちなのは商人だけで武士はビンボーしているのだ。所領を切り売りしなければ生活できないひどい状況なのだ。売れば売るほど余計に窮乏することは分かっているのだがな」
黒沼が再び顔を出してきた。
「分かっているだと?分かってないな、新田ちゃん。商人を治めているのは誰だ?お前ら武士じゃないか。よって商人だけが金持ちで武士だけがビンボーなんてありえない。武士のカネは武士のカネ。商人もカネも武士のカネじゃないか」
義貞は笑った。黒沼をにらみつけた。
「あんたの考えは間違っている」
黒沼は声をあげて笑った。義貞の腰のものを指して尋ねた。
「お前は何のために刀を差しているのか?その刀を突き付けて脅せば、たちまち商人のカネは武士のカネになるじゃないか!お前の持っている武力は、いったい何のための武力か?ただの飾りか!ウハハハハ!」
ガチャ!
チャバ!
義貞は刀を抜いて振り下ろした。
「うぶ!」
どう!
黒沼は崩れ落ちて息絶えた。
義貞は刀の血をブンと払って叫んだ。
「武力は民を脅すためにあらず!民を守るためにあるものなり!」
義貞の家来たちは一斉に金沢とその手下らを取り巻いた。
義貞は切っ先を金沢に突き付けて言い放った。
「我が民を害そうとする者は、幕府とて容赦はせぬ!」
「ご、ごもっとも……」
金沢はへたり込んだ。縛り上げられて幽閉された。
金沢の手下の多くは逃亡してしまった。
「事の次第はすぐに幕府に知れましょう」
義助は心配した。
義貞の執事・船田義昌(ふなだよしまさ)はもっとおびえた。
「幕府は今まで歯向かった御家人をことごとく成敗してきました。梶原景時(かじわらのかげとき。「排除味」参照)、比企能員、畠山重忠(はたけやましげただ)、和田義盛(「挑発味」参照)、三浦泰村、安達泰盛(「揉事味」参照)などみなみな滅亡していきました。ああ、新田もこれで終わりです!」
「俺たちに終わりはない!」
義貞は一喝(いっかつ)して言い切った。
「終わるのは、幕府だ」