3.運命のひと

ホーム>バックナンバー2022>令和四年3月号(通算245号)侵攻味 小田原城奪取3.運命のひと

北京五輪とウクライナ侵攻
1.誰がために夜は明ける
2.なにかが起きる
3.運命のひと
4.海はふりむかない
5.願い星叶い星
6.星空のあいつ

 伊勢宗瑞は少数の家来を連れて大森藤頼の居城・小田原城に挨拶に行った。
「大森様。代替わりのお祝いを持参いたしました。以後もよしなに」
 積み並べられたお土産に、藤頼は上機嫌だった。
「伊勢殿。こんなにたくさんのお土産を持ってきてくれた者は初めてじゃ。こちらこそよろしく頼む」
「ははっ」
「ところで、この包みは何じゃ?」
「鹿肉でございまする。おいしいですよ」
「おお、これが鹿肉か。予の大好物じゃ。こんな塊は初めて見た。予の膳には小さく切り分けられた肉しか登場せぬ」
「獣肉は色々お好きなのでしょうか?」
「いや、好きなのは鹿ぐらいじゃ。ケモノ全般はあまり好きではない」
「ですか」
「特に牛が嫌いじゃ。あいつらは気持ち悪すぎる」
「牛が気持ち悪い?」
「そうじゃ。あいつらは常に何かを食っている」
「あー。あれは胃の中のものを吐き戻して食べているのですよ」
「なんじゃそれ! 汚っ! そうであろう! そうだと思っていたよ! 牛のヤツラはそんな信じられんおぞましいことを平気でしでかしているのじゃ!」
「はあ」
「それに、あのよだれは何じゃ? ダラダラダラダラべっちょべちょじゃないか! ああ! 思い出すだけでも胃がムカムカする! もうやめっ! 醜い牛の話はやめっ!」
 宗瑞はほくそ笑んだ。
(こいつの弱点、見ーっけ)

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