ホーム>バックナンバー2022>令和四年3月号(通算245号)侵攻味 小田原城奪取5.願い星叶い星
明応四年(1495)九月にも、伊勢宗瑞は小田原城にやって来た。
「お願いがあります」
「どうした? 真の友よ」
大森藤頼は、宗瑞と会う時はいつも上機嫌になっていた。
「伊豆で鹿狩りをしていたのですが、鹿たちがみんな箱根(はこね。神奈川県箱根町)の山を超えて大森様の領内に逃げ入ってしまいました」
「あらあら」
「鹿が捕れなければ、大森様においしい鹿肉を献上できません」
「それは困ったことじゃ」
「ですので、大森様の領内に勢子(せこ)を入れさせていただけませんか?」
「なるほど。予の領内に勢子を入れて、鹿たちを伊豆に追い戻して一網打尽に捕まえようというのじゃな?」
「そのとおりです」
「わかった。伊勢殿の勢子を予の領内に入れることを許可する」
「ありがとうございます!」
「なあに、このくらい礼には及ばぬ。普段、世話になっているお礼じゃ」
「では、今晩勢子を進入させます。お礼にたっくさん鹿をしとめて肉を献上しますからねっ」
「ハハハ! そんな〜、気を使わなくったっていいんじゃよ〜」
宗瑞は心の中だけで続けた。
(本当は、しとめるのはアンタなんですけど――)