ホーム>バックナンバー2007>2.とろいのダンナ
去来穂別皇子(いざほわけおうじ・みこ。後の履中天皇)が石を投げた。
「やーい!」
ぼて!
住吉仲皇子(すみのえのなかつおうじ)も石を投げた。
「のろまー!」
びち!
多遅比瑞歯別皇子(たじひのみずはわけおうじ。後の反正天皇)も石を投げた。
「ドン亀野郎ー!」
ごちん!
「いたい〜」
いじめられていたのは、彼らの弟の雄朝津間稚子宿祢皇子(おあさづまわくごのすくねおうじ。後の允恭天皇)。
彼らは伝十六代大王・仁徳天皇(にんとくてんのう)の皇子たち。
【大王家略系図】(赤字は女性。重要人物のみ) |
|
|
|
|
|
|
|
|
|
応神天皇 |
┳ |
仁徳天皇 |
|
┳ |
履中天皇 |
┳ |
中蒂姫皇女 |
|
|
┣ |
若野毛二俣王 |
|
┃ |
(去来穂別皇子) |
┃ |
[大草香妃→安康大后] |
|
|
┣ |
草香幡梭皇女 |
|
┣ |
住吉仲皇子 |
┣ |
磐坂市辺押磐皇子 |
|
|
┃ |
[履中大后] |
|
┣ |
反正天皇 |
┣ |
御馬皇子 |
|
|
┣ |
忍坂大中姫 |
|
┃ |
(多遅比瑞歯別皇子) |
┗ |
青海皇女 |
|
|
┃ |
[允恭大后] |
|
┣ |
允恭天皇 |
┳ |
木梨軽皇子 |
|
|
┗ |
衣通郎姫 |
|
┃ |
(雄朝津間稚子宿祢) |
┣ |
安康天皇 |
|
|
|
[允恭妃] |
|
┗ |
大草香皇子 |
┃ |
(穴穂皇子) |
|
|
|
|
|
|
|
┗ |
雄略天皇 |
|
|
|
|
|
|
|
|
(大泊瀬幼武皇子) |
|
※ 忍坂大中姫は若野毛二俣王の娘とも伝えられています。
※ 仁徳天皇の娘にも草香幡梭皇女がいますが、同一人物かどうかは不明。 |
|
「なにしてるの!」
そこへ忍坂大中姫が姉・草香幡梭皇女(くさかのはたひおうじょ・ひめみこ)とともに駆けつけた。
仁徳天皇は応神天皇の子なので、姉妹は去来穂別皇子らの叔母(または従姉妹)に当たるが、そんなに年は離れていない。
「ひどいじゃない!みんなで一人をいじめてっ!」
幡梭皇女は去来穂別皇子らをしかりつけた。
「だって、こいつ、スゲーとろいんだもーん」
そのすきに稚子宿祢は逃げ、大中姫の背中に隠れた。
「いいこいいこ」
大中姫は頭をなでてあげた。
「ありがと〜、ナカちゃん〜」
稚子宿祢は目を細めて身体をくにゅくにゅさせて喜んだ。
これがいつものパターンであった。
去来別穂皇子ら兄弟はあきれた。
「それにしても、稚子は大中姫になついているなー」
「愛玩(あいがん)動物か!」
「結婚してあげれば〜」
幡梭皇女まで勧めた。
「そうしてあげなよ」
「ううん〜」
長じて大中姫はその気になった。
結局、稚子宿祢と結婚してしまった。
一方、幡梭皇女はちゃっかり去来別穂皇子と結婚していた。
姉は妹に言った。
「よかったわね。お互い好きな人と結婚できて」
去来穂別皇子は健康的で知的で格好良かった。
住吉仲皇子は男前で、多遅比瑞歯別皇子は歯がきれいであった。
それなのに稚子宿祢は、相変わらずどんよりしていて、病弱で言語不明瞭(ふめいりょう)でしぐさも意味不明であった。
「なんかちがう〜」