1.黄金の犬 | ||||||||||||||
ホーム>バックナンバー2022>令和四年9月号(通算251号)白河味 嘉保の強訴1.黄金の犬
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「日本一の大天狗」
といえば、源頼朝・源義経兄弟をケンカさせた後白河法皇であるが、その手法は曽祖父・白河上皇をまねている。
白河上皇もまた、源義家・源義綱兄弟をケンカさせて喜んでいた(「清和源氏系図」参照)。
「南都北嶺の悪僧ども、特に比叡山の山法師どもに対抗するための武力は必要だ。が、一人の武士に権力を集中させてはならない」
白河上皇といえば、摂関家を抑えて院政を始めた大権力者である。
当時はまだ武士が天下を取るとは思っていなかったため、摂関家の軍拡を阻止するための方策として、その部下である武士達を「共食い」させて弱体化させていたのである。
「犬は互いにかみ合わせておけば、主君には牙をむかない」
白河上皇は義家が後三年の役平定で名声を得ると、義綱には出羽で起こった平師妙(たいらのもろたえ)の乱を平定させた。
寛治八年(1094)、白河上皇は師妙らの首級を掲げて凱旋(がいせん)した義綱を従四位下に叙し、陸奥守から美濃守に栄転させた。
世間の人々は不思議がった。
「あれ? 後三年の役で活躍した八幡太郎(はちまんたろう。義家)殿には恩賞はなかったよね?」
「これではまるで賀茂次郎(かもじろう。義綱)殿が武家の棟梁のようだ」
「そうだよ。賀茂次郎の時代が来たんだよ」
結果、義家は影薄になり、義綱が台頭した。
「そうか。おれさまの時代が来たのか」
主人が高慢になると、関係者も横柄になるものであろう。
さっそく義綱配下の源国房(源頼光の孫)が問題を起こした。
伊勢神宮造宮のための役夫工使(やくぶこうし。採用係)に暴力を振るったのである。
「美濃は国司が代わって忙しいんだ。伊勢に派遣する人員の余裕なんてない」
「そこを何とか〜。一人でも二人でも十人でも〜」
「しつこいな! こっちも人手不足なんだよっ!」
ボカン!
「痛い〜、武士はすぐ暴力を振るう〜」
知らせは京へも伝わった。
お子様・堀河天皇に代わって関白・藤原師通が、
「乱暴者の源国房を逮捕せよ!」
と、宣旨を出したが、義綱は無視した。
師通は白河上皇に訴えた。
「美濃守義綱は犯罪者を放置しています! 悪人を放置する者は同罪かと」
「待て待て。細かいことで騒ぐな。多少のことは見て見ぬふりをしておけ。義綱は使える。院にとっては黄金の犬なのだ」
逆にたしなめられた。