2.邪魔したろ

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森友学園問題
1.やらせたろ
2.邪魔したろ
3.なぶったろ
4.チクったろ

 金次郎武士になってからは二宮尊徳と名乗った。
 文政六年(1823)、尊徳相模栢山の家と土地を売り払うと、下野桜町に移り住んだ。
 旅立つ際に尊徳は歌を詠んだ。

  借りの身を元のあるじに貸し渡し 民安かれと願ふこの身ぞ  

 これ以前、主・大久保忠真は聞いた。
「復興資金を用意させよう。いくら必要か?」
 尊徳は力強く答えた。
「ビタ一文いりませぬ」
「何と!」
 忠真は驚いた。わからなかった。
 尊徳は理由を話した。
「大金は争いを呼ぶだけです」
「だが、金がなくては復興はできまい」
「可能です。新たに田畑を切り開けばすむことです。田畑の作物のうち半分は切り開いた者に与えます。残りの半分は次の田畑を切り開く者に残しておきます。このように次々と田畑を切り開いていけば、元手などなくても桜町中の全ての荒れ地を田畑に変えることができるでしょう」
「なるほど。しかし桜町の人々はみな怠け者と聞いている。怠けぐせのついた彼らを、うまいこと働かせ続けることができるであろうか?」
「その点については調査済です。彼らが働くなった理由は、働いても褒美がもらえなかったからです。働いても働いても、税として取り上げられていたからです。働いたら働い分だけ褒美がもらえるとなれば、彼らは喜んで働きましょう。そのためには、復興するまで税は取り立てないことです。まずは彼らのやる気を引き出すことです。税ほどやる気を削ぐものはありません」
「わかった。桜町からは復興できるまで税を取らないことにする」
「ありがとうございます」
「で、何年で復興できる予定か?」
「十年です。十年で二千石まで戻してみせましょう」
「ほう。その後で四千石まで戻すのだな?」
「いえ、二千石が限界です。領主の宇津さまにはそれで納得してもらいましょう。税を取り過ぎれば民はやる気をなくします。生産高や村人が減ってしまっては元も子もありません」
「むむむ、なるほど」

 尊徳は物井村の桜町陣屋を本拠にして働き始めた。
「荒れ地を田んぼに!」
「やせた畑を肥えた畑に!」
「山や森を切り開いて新たな田畑に!」
「畑仕事が終わった夜は、わらじ作りなど内職をしよう!」
「倹約に励んでお金を貯めよう!」
 また、働き者や孝行者を見つけて農作物や農具など褒美を与えた。
 褒美の財源は、自分の家や土地を売って得た資金から出した。
 翌年からは新たに切り開いた田畑からの収益でまかなえた。
「よい考えですね」
 同期の横山周平
(よこやましゅうへい)は、尊徳に協力的であった。

 ところが横山は、文政十年(1827)に小田原に転勤してしまった。
 代わって上司として赴任してきたのは、あの豊田正作であった。
金次郎ちゃん、よろしく〜。これからは俺様の言うことを聞くんだよ〜ん」
 豊田は尊徳と反対なことを村人たちに命じた。
「何が新田開発だ。おまえら、冷静になってよーく考えてみろ。田畑が広がれば広がるほどおまえらの仕事は増えちゃうんだぞ。遊ぶ時間がなくなっちゃうんだぞ。金次郎の言うとおり働きまくっていたら過労死するのがオチだ。やめやめ!人生は一度しかないのだ。楽しめ楽しめ!遊べや遊べ!」
 村人たちは混乱した。
「二宮さまは働けって言う〜」
「豊田さまは遊べって言う〜」
「おらたちいったいどうすりゃいいの〜?」
 天性ぐうたらな村人たちである。
「仕事と遊びとどっちがいいの?って、遊びに決まっているじゃないか!」
「二宮さまより豊田さまのほうが偉いんだし〜」
「よーし、豊田さまの言うことを聞こう!」
 また、尊徳の政策のせいで移民が増えたことも、既存の村人の反感を買ったようであった。

 村人たちの選択に、名主ら有力農民は喜んだ。
 もともと彼らは抵抗勢力のため、すぐに豊田になびいた。
 連夜、豊田をもてなした。
「二宮の言うことを聞いていたら税を徴収できませんからな」
「税を集められないってことは、ちょろまかしもできないってことだ」
「おっと、これは内緒でした。さあさあ、豊田さま。お酒をどうぞ」
「おっとっと、こぼれる〜ん」

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