1.偽善者・顕如を討つ!

ホーム>バックナンバー2011>1.偽善者・顕如(けんにょ)を討つ!

◆ 中東騒乱
1.偽善者・顕如を討つ!
2.仏敵・信長を討て!
3.小木江城の戦
織田信興 PROFILE
【生没年】 ?-1570
【別 名】 彦七郎・織田信与
【出 身】 尾張国(愛知県)
【本 拠】 尾張小木江城(愛知県愛西市)・尾張鯏浦城(愛知県弥富市)
【職 業】 武将
【 父 】 織田信秀(尾張古渡城主・勝幡城主・末盛城主)
【 母 】
【兄 弟】 織田信広・信長・信行・信包・信治・秀俊(信時)・秀孝・秀成
・信照・長益(有楽)・長利・女(神保氏張・稲葉一鉄室)
・女(織田信清室)・女(斎藤道三室)・女(苗木勘太郎室)
・お市(浅井長政・柴田勝家室)・女(織田信直室)・女(織田信成室)
・お犬(佐治為興・細川昭元室)・女(飯尾信宗室)・女(牧長清室)
・女(津田元秀室)
【妻 子】
【没 地】 尾張小木江城

「余は、父に疎まれ、母に嫌われ、家臣や領民から『たわけ』呼ばわりされて育ってきた。裏切りは日常茶飯事。一族や家臣が次々と余に刃(やいば)を向けてきた。人とは信じられぬもの――。そのようなことは十分承知していたつもりであった……。にもかかわらず、余は浅井長政(あさい・あざいながまさ)という男を信じてしまった……」
「人を信じることは悪いことではありません。長政殿も苦しかったのです。究極の選択を迫られたわけですから」
「その通りだ!ヤツは自ら滅亡への道を選択したのだ!裏切りの罪は命で償ってもらわねばならぬ!」
「……」
「ヤツには礼を言わねばならぬ。ヤツのおかげで敵の存在が判然とした!ヤツに組する朝倉義景
(あさくらよしかげ。「大雪味」参照)のみならず、将軍足利義昭石山本願寺(大阪市中央区)比叡山延暦寺(滋賀県大津市)なども、みなみな敵であったのだ!おのれっ!余はたとえ誰であっても容赦せぬっ!余に歯向かう者は、圧倒的な武力でもって制圧するのみっ!」
「……。兄上は人だけではなく、神仏も信じられないのですか?」
「神仏など存在せぬ!この世だけが存在し、あの世も前世もない!神仏とは死人のことだ!キリストもそう!釈迦
(しゃか)もそう!日本の八百万(やおよろず)の神々もそう!実体をなくして何の力もなくなったタダの死人を、悪辣(あくらつ)な宗教家がいかにも万能な超能力者かのように吹聴しているに過ぎぬのだ!天国もそう!地獄もそう!これらはみなヤツラが私服を肥やすための方便に過ぎぬ!ゆえに神仏など存在せぬ!存在もせぬものを、信じろというほうがおかしいであろう!」
「私は神仏を信じております。神仏の御加護を信じております。兄上ほか多くの人々の無事を、日々
薬師仏(やくしぶつ)に祈っております」
「余は神仏を否定しているだけで、神仏を信仰する者まで否定してはおらぬ。家臣の多くは何らかの神仏を信じている。ただ純粋に神仏を信じている者たちほどかわいいものはおらぬ。余が否定するのは、余に歯向かう者だけだ!神仏をダシにして無垢
(むく)な民からゼニを巻き上げ、影で悪事を働いている化け物どもだけだ!余は今から化け物どもの頭目を討ち果たしてくる!」
本願寺第十一代法主・顕如
(けんにょ。光佐)上人ですか?」
「そうだ!ヤツは表で偽善の笑みを浮かべながら、ウラで余を殺そうとたくらんだ!金ヶ崎
(かねがさき。福井県敦賀市)退け口(「大雪味」参照)の際、千種峠(ちぐさとうげ。千草峠。三重県菰野町)で何者かに余を狙撃(そげき)させた黒幕こそ、顕如その人であろう!六角承禎(ろっかくしょうてい・じょうてい。義賢)の仕業とも考えられるが、余に追放された六角に刺客を雇うゼニはない!六角のゼニはすべて、これをかくまっている南近江一向一揆から出ている!その南近江一向一揆を操っている頭目こそ、顕如その人ではないかっ!」
「つまり、兄上が顕如上人を憎むのは私怨
(しえん)ということですか?」
「私怨ではない!顕如は巨万の富を蓄えている!民の幸せを願う宗教家の身でありながら、民の幸せの根源であるゼニを搾取して喜んでいる!初め余は何ゆえヤツのもとに富が集まるのか分からなかった!
(大阪府堺市)を得て、ようやくそれが分かった!ヤツはの交易をジャマしている!ヤツはこの国のすべての富を石山本願寺一点に集めようとしているのだっ!」
「……」
「余は許せなかった!余は顕如から富を奪うため石山立ち退きを命じたが、ヤツは聞かなかった!よって余は力ずくで石山を奪うことにした!富は民に還元し、石山には西海平定のための大本営を置く!」
「私は兄上の政策に賛同しています。兄上は富裕層に矢銭
(やせん。軍用金)を課す一方、楽市楽座関所撤廃を行うなど、民に優しい政治を目指しています。悪いのは顕如上人のほうです。顕如上人が真の宗教家を名乗り続けるのであれば、巨万の富は手放すべきです!仏は決してカネの亡者をお許しになることはないでしょう。上人自身も気づいているはずです。ゼニというものはただ蓄えていたところで何の役にも立たないということを!使って初めてその効力が発揮されるということを!言って聞かない者は、こらしめてやるよりほかありません」
「フフフ。戦いを好まぬなんじが言うことに間違いはない。――が、一つ問題がある」
「問題とは?」
「余が顕如を攻めれば、ヤツは長島
(ながしま。三重県桑名市)の一向一揆を扇動して尾張を攻撃させるであろう。その際、真っ先に犠牲になるのは、ここ小木江城――」
「ハハッ!ありえません。私と長島一向一揆の人々は仲良しです。私は彼らが信仰心の厚いいい人ばかりだということを知っています。向こうもそうです。私が戦を好まぬヤツであることを知っています。そんな私に、そんな彼らが攻めてくることなんてありえません。前例だってありません。彼らは桶狭間の戦
(「最強味」参照)の時も、美濃攻めの時も、上洛時も、伊勢攻めの時ですら動かなかったのです。今回もまた動くことはないでしょう」
「いや、今回は違う。なんじは念のため清洲
(きよす。清須。愛知県清須市)辺りに退いておいたほうがよい。長島の住人は女子供合わせて十万人、戦闘兵力は数万人。対して小木江城兵は二百人足らず。ヤツラに攻められたら、ひとたまりもない」
「大丈夫ですって!私は兄上と違って神仏を信じていますが、人も信じています。私は神仏以上に長島の人々を信じています」
「であるか。なんじが言うのであれば間違いはない。では、余は今から石山本願寺をもらってくる」
「お気をつけて。私は薬師仏に兄上以下みなの無事を祈っています」
「頼む」
「兄上」
「なんだ?」
「兄上は人を信じないと言いながら、私を信じてくれているではありませんか」
「ふん」
「そして、長島の人々も信じてくれている……」
「それはない」
「それだけではなく、心底では神仏すら信じている……」
「フハハッ!冗談は休み休み言え!」

*            *            *

三好三人衆
三好長逸(長縁)
岩成友通(主税助)
三好政康(政生)

 元亀元年(1570)八月、織田信長は、阿波から京都に迫る三好三人衆を討つため美濃岐阜(岐阜県岐阜市)城を出陣、摂津天王寺(てんのうじ。大阪市天王寺区)に陣し、野田・福島砦(のだ・ふくしまとりで。大阪市福島区)を攻撃した。
 九月、顕如は三好三人衆に組して石山本願寺で挙兵、諸国の一向一揆信長討伐命令を発したのであった。

歴史チップス ホームページ

inserted by FC2 system