3.出奔!藤沢元造!! | ||||||||||||||
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「藤沢、落ちませんでした」
小松原英太郎は報告したが、山県有朋が許してくれるはずがなかった。
「落ちるまで帰ってくるな! 必ず落とせ!」
「へい」
桂 太郎 PROFILE | |
【生没年】 | 1847-1913 |
【別 名】 | 桂寿熊・海城 |
【出 身】 | 長門国萩(山口県萩市) |
【職 業】 | 軍人政治家 |
【役 職】 | 首相(1901-1906,1908-1911,1912-1913) ・元老・陸相・蔵相・外相・内大臣・侍従長 ・台湾総督・東京防御総督・陸軍大将・公爵 |
【政 策】 | 軍備拡張・思想弾圧・ニコポン主義 |
【 父 】 | 桂 信繁 |
【 母 】 | 喜代子 |
【主 君】 | 毛利敬親・明治天皇・大正天皇 |
【 師 】 | 山県有朋・藤田与次右衛門・岡田玄道ら |
【盟 友】 | 小松原英太郎・寺内正毅・曽祢荒助 ・児玉源太郎・後藤新平・平田東助 |
【仇 敵】 | 伊藤博文・井上馨・西園寺公望 ・幸徳秋水・藤沢元造ら |
【墓 地】 | 大夫山(東京都世田谷区) |
小松原は困った。桂太郎に相談した。
「総理。お願いしますよ。ここはもう、総理の『ニコポン主義』に頼るしかありません」
が、桂は渋った。
「『ニコポン主義』は私は必殺技だ。安売りするものではないし、早々と繰り出すものでもない」
「お願いしますよ〜」
「まだ一度失敗しただけではないか。何度も何度もしつこく説得すれば、さすがの藤沢も折れるであろう」
小松原はがんばった。
藤沢の顔を見るたびに頭を下げてすがりついて額づいて必死にお願いした。
「お願いしますよ〜。質問やめてくださいよ〜。この通り〜」
「いやだね。フンッ!」
小松原は手下を送り込んだ。カネもしこたま付けてやった。
「藤沢先生! ちょっとちょっと!」
「小松原先生から贈り物です」
「これも懐へどーぞ」
「山県卿がもっとイイモノくれるんですって!」
藤沢は怒った。
「うっとうとしい! こんなもんでワイはたぶらかされんぞ! ワイの忠誠は新高山(にいたかやま。玉山。大日本帝国の最高峰。現在は台湾の最高峰。3950m)よりも高く、ワイの意志はダイヤモンドよりも固いのだ! 絶対に質問はやめんぞ!
神に誓ってもやめんぞーっ!!」
藤沢は顔を出さなくなった。
どこへともなく行方をくらましてしまった。
藤沢は不屈な決意を固めるために伊勢神宮参拝に向かったのであった。
「藤沢先生、消えちゃいましたー!」
小松原は焦った。
「どういうことだ! いなけりゃ説得しようがない! 捜せー! 草の根分けて捜すのだーっ!」
小松原は藤沢を捜索させた。
また、大阪にいた藤沢の実父・藤沢南岳(なんがく)に、息子の説得を依頼した。
「父親に説得されれば息子も言うことを聞くだろう」
南岳は幕末〜大正時代の儒学者で、去る戊辰戦争では讃岐高松(たかまつ)藩を新政府軍に寝返らせた功労者である。
息子の性格を知りつくしている彼は笑い飛ばした。
「あいつはわしに似て頑固じゃからのう。変節するはずがあるまい」
小松原はさじを投げた。頭を抱えた。
「いったい藤沢はどこへ行ってしまったのだー! ああ、もうダメだ! 第二十七議会はぐちゃぐちゃ、内閣は藤沢によってぶっ壊されてしまうのだー!」
桂がのほほんと言った。
「嘆くことはない。十六日までに藤沢は必ず帰ってくる。帰ってこなければ、内閣が壊されることはない」
「ですよねー。でも、帰ってきたら壊されるんですよ! 藤沢は絶対に帰ってきますよっ!」
「だからそれを言っているではないか。小松原君。何か忘れてはいないか?」
「え? 何を?」
「私には必殺技があるということを」
「ああっ!『ニコポン主義』ですね! 出ますかーっ! いよいよ炸裂(さくれつ)しますかーっ!」
小松原は歓喜したが、すぐに消沈した。
「でも、藤沢がいないんじゃどうしようもないじゃないですか。まさか議場で公然と炸裂させるわけにはいかんでしょう」
桂は笑った。そして、明かした。
「藤沢は伊勢神宮に行っているのだ。で、十五日に東京に帰ってくる」
「本当ですか?」
「本当であろう。出所は確かだ。寺内総督(寺内正毅朝鮮総督)が教えてくれた。総督が私と藤沢との対決の手はずも整えてくれるそうだ」
「と、いうことは十五日の夜が――」
「そうだ。『ニコポン主義』の夜だ」