1.生きるために勝つ

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大相撲場外場所
1.生きるために勝つ
2.生きるために負ける
3.生きるために殺す
4.生かすために代用す

 昔々おおむかし、天神族と地祗(ちぎ)族の戦いがあった。
 天神族とは弥生人、大陸からの侵略者であり、地祗族とは縄文人、古くからに住んでいた原住民のことである
(「北方味」参照)
 やがて天神族は勝利し、地祗族を制圧してこの国を治めた。

 当麻蹶速(たいまのけはや・たぎまのけはや・たいまのくえはや。当摩蹴速)大倭当麻(たいま。當麻。奈良県葛城市)の住人、地祗族と思われ、その中でも有力者だったと思われる。
 狩猟民族である地祗族は、狩りの腕がすべてであった。狩猟に長けていれば、それなりの生活や地位が保障されていた。

 が、天神族の侵攻によって状況は一変した。
 原因は、天神族に「シマ」を盗られたことと、「狩猟」から「農耕」への転換であった。
 そうである。天神族は農耕民族だったのである。
 天神族は触れを出した。
「狩猟は野蛮だ。収入も安定しない。それに比べて農耕はがっちりだ。これからは米や麦などを作るように」

 蹶速も農業をやってみた。
 しかし、植物は動物と違い、暴力で支配することはかなわなかった。
 妻子は騒いだ。ぶうたれた。文句を言った。
「腰、痛い〜。あとはやって〜」
「今日のご飯、こんだけー?」
「肉、食いてぇー!」
 蹶速は農具を放り出した。
「えーい! こんなこと、やってられるかー!」
 で、とっとと脱農してしまったのである。

 かといって「シマ」がないため狩りもできない。
 蹶速は食い扶持
(ぶち)を稼ぐための手段を考えた。
(おれが向いている仕事は何か?)
 すぐに思いついた。
(おれには力がある。力しかない。そうだ!大力を生かす仕事をしよう!)
 それが「賭
(か)け相撲」であった。
「おれに勝つことができたら、望むものをやろう。その代わりおれが勝ったら、それに相当するものをいただく」

 蹶速は勝ち続けた。
 食っていくためには勝ち続けるしかなかった。
 そして、絶対に負けなかった。
 飢え死にしないためには、負け死にしないためには、何が何でも負けるわけにはいかなかった。
 常に彼は背水の陣で戦い続けたのである。

 結果、蹶速は賭け相撲で生活できるようになった。
 富豪になり、豪邸に住めるようにもなった。
 妻子も贅沢になった。
「ああ、今日も御馳走で満腹だぜー」
「もう動けないー」
「家が広すぎて便所まで遠すぎるよー。そうだ! 輿
(こし)に乗って行こう!」

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