3.藤原温子の求愛

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プロ野球再編問題 パート2
1.光孝天皇の崩御
2.阿衡の紛議の勃発
3.藤原温子の求愛
4.阿衡の紛議の決着
  

 アレとは、女であった。
 基経がすねる前夜、夜御殿
(よんのおとど。天皇の寝室)に、見知らぬ美少女がやって来た。
「来ちゃった」
 美少女は言った。ほひっと笑った。かと思ったら、赤面してうつむいた。
 宇多天皇は不審がった。
「だれ?」
 美少女は名乗った。
藤原基経の娘、温子
(おんし)。十七歳です。うふっ」
基経の娘……」
 事態はつかめた。
 そうなのだ。宇多天皇と血縁の薄い基経は、娘を送り込んできたのであった。天皇の外戚になるために――。
 温子は宇多天皇の寝台に飛びついてきた。衾
(ふすま。上布団)の端をつかむと、果敢にも中にもぐりこもうとした。
「何をする!」
 宇多天皇は驚いた。思わず衾から飛び出した。
「何って、決まってるじゃな〜い」
「なんてマネだ! あっち行け!」
 温子は世にも悲しそうな顔をした。
「私のことがお嫌いですか? 好みじゃないとか、生理的に受け付けないとか……」
 宇多天皇はわめいた。
「そんなことは言ってない! 朕にはすでに妻子があるのだ! 新たな妃など、必要ないのだっ! 帰れ!」
「帰らない! ずっとここにいる!」
 温子は枕にしがみついた。
 宇多天皇は困った。温子に言った。
「汝のしていることは本意ではないはずだ。父に言われたから、渋々そうしているんであろう?」
「そんなことないもん!」
 温子は首を横に振った。
「帝は御存知ないかもしれないけど、私はずっとずっと、帝のことをお慕いしていました! 父の牛車に乗せられて、何度もこっそり帝のお姿を拝見したことがありました!『あの方はだれ?』私が聞くと、父は答えました。『お前の王子様だよ』って。『私の王子様……』 そのときからずっと、私は帝のことばかり考えていました! こうして帝と結ばれる日が来ることを心待ちにしていました! ずっとずっと夢見ていました!」
「勝手に決めるな! 思い込みだ! お前の父が作り上げた妄想だ! 基経め、その手には乗るもんか! 摂政関白も、基経の代で終わりだっ! おしまいにするんだっ!」
「そんなら、今度は橘広相を摂関にするおつもりですか? 橘義子を立后させるおつもりですか? 義子をそんなに愛しているんですか?」
「違う! 本当は朕は、天皇親政を目指しているのだっ! ただ、義子を愛しているのは、紛れもない事実だ!」
 温子は泣きそうになった。
 宇多天皇は、とどめを刺そうと声を張り上げた。
「朕は義子を愛している! 義子は汝より、ずっといい女だ! 汝なんて義子の足元にも及ばない! 彼女に比べたら、まるでブスで下種で不細工女だ!」
 温子は耐えていた。今にも崩れそうな顔で、じっと見つめてきた。
 宇多天皇はたまらず視線をそらした。
(さすがにこれであきらめたであろう)
 温子は寝台から下りた。
 帰るのかと思ったら、近付いてきた。下から宇多天皇をのぞき込んできた。そして、顔をそらそうとした彼のほおを両手で包み込んで言った。
「今の言葉、私の顔を見ながら、もう一度言ってみて」
「な、なんだと……」
「私の顔をよーく見て! この顔が本当にブスですか? ゲスですか? 義子よりずっと、ブサイク女ですかっ?」
 温子は思いっきり微笑んだ。世界中の百花繚乱
(ひゃっかりょうらん)をその顔一つに集めたようにニッコリと笑った。彼女はかわいかった。義子なんかより、ずっとずっと美しかった。
「うわぁあぁ〜!」
 宇多天皇は温子を突き飛ばすと、夜御殿を飛び出していった。
 外では尚侍・藤原淑子がひかえていた。待ち構えていた。
「どうかしました?」
「べつに」
「何か中でお騒ぎのようでしたけれど……。誰かいるんですか?」
「いや。誰もいない。女も連れ込んでいないのに、いるはずがなかろう!」
 淑子はクスリと笑った。
「だったら、お休みになられては?」
「おっ、お休みなんて、耐えられるもんか!」
 その晩、宇多天皇は外で寝た。

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