2.仲 間 | ||||||||||||||
ホーム>バックナンバー2020>令和二年5月号(通算223号)商売味 紀伊国屋文左衛門のミカン伝説2.仲間
|
俺には取り巻きが大勢いました。
ごろつき、チンピラ、ならず者、無頼漢など、全員ワルです。
無法者たちなんで、仕事なんてせずに遊んでばかりいます。
「仕事しろ!」
年上に命令されると抵抗したくなる年頃なんです。
でも、ある時から変わりました。
「仕事するな!」
そう言われるようになったからです。
悪天候が何日も続いて船が出せなくなったためです。
「こんなシケ続きの中で船を出したら命が危ない。シケが収まるまで仕事はするな」
こう命令されると、何だか仕事したくなってくるんです。
そうっす。命令されると抵抗したくなる年頃なんです。
また、外出自粛もさせられるようになりました。
「大坂では疫病が大流行している。この辺にも疫病神は来ているようだ。当面、外出は自粛しなさい」
そう言われると、逆に外に出たくなるんです。
ごろつきがぼやきました。
「ああ、外に出て遊びてー」
チンピラも笑いました。
「こんなに退屈だと、仕事したくなるぜ」
ならず者がわめきました。
「何でもいいから、でっかいことをやりてーよー!」
無頼漢も叫びました。
「みんながびっくりするようなことをよーっ!」
ごろんごろん。
その時、俺の前に米俵が一つ転がってきました。
「ばあ!」
俵の中からいきなり女が顔を出して驚かせました。
女はごろつきの嫁でした。
俺は笑っちまいました。
「何をしてるんだよ?」
「米俵に入ってるの〜」
「見りゃわかるよ。どうして入っているか聞いてんだよ」
ごろつきが代わりに答えました。
「こいつ、裸なんだよ」
「え?」
ごろつきの嫁が付け足しました。
「そうよ。裸で出歩けないから、こうやって米俵に入って暮らすようになったのよ。きゃはは!」
ごろ〜んごろ〜ん。
「何だよそれ! 着物を着ればいいじゃん!」
「着物は食べ物を買うために全部売っちゃったわ」
「俺の新妻の古着をあげるよ」
「ありがとー」
ごろつきが警告しました。
「でも、そのうちにぼんの新妻十九歳もスッポンポンになるぜ」
「俺の新妻はならないよ」
「あんたのオヤジ、仕事ないんだろ?」
「船が出せないからな」
「あんたは仕事しないんだろ?」
「まあな」
「じゃあ、そのうちにぼんの家もスッテンテンじゃねえか」
「だな」
「スッテンテンになったら、スッポンポンになるしかねえじゃないか」
「だなだな」
俺も危機を感じました。
俺は新妻を呼びました。
新妻はすぐにやって来ました。
「なあに? あなた」
「これを見な」
ごろごろごろごろ、んごろんごろ〜。
俺は転がってはしゃいでいたごろつきの嫁を見せて聞きました。
「――おまえはこんなふうになりたいかい?」
「なりたくありません!」
激しく首を横に振っての即答でした。
「なりたくないのなら、おまえのオヤジに話がある」