3.恐 喝

ホーム>バックナンバー2020>令和二年5月号(通算223号)商売味 紀伊国屋文左衛門のミカン伝説3.恐喝

怖いコロナ
1.竿 竹
2.仲 間
3.恐 喝
4.船 出
5.成 金

 俺は新妻十九歳とごろつき夫妻を連れて新妻のオヤジ宅を訪れました。
 新妻のオヤジとは、高松河内
(たかまつかわち)――。
 天下の景勝地・和歌浦
(わかのうら)にある玉津島(たまつしま)神社の神官です。
 トントン。
「どなたかな?」
「おれおれ」
「はて?」
「おれおれ、俺っす」
「俺ではわからん」
「わかってるくせに〜。あんたのかわいい婿
(むこ)ですよ〜」
「ケッ!」
 河内は渋面で出てきました。
「何の用だ? 金の無心ならお断りだぞ」
「大金が欲しい」
「やっぱりそうか。そうと思った。とっとと帰んな!」
「船を一隻、買えるほどでいいからおくれよ」
「聞こえなかったのか? そんな大金は出せない。帰りなさい! シッシッ!」
「いいのかな〜? かわいい婿を邪険にしても〜」
「かわいいもんか!」
 俺は、米俵に入ったごろつきの嫁を転がらせて見せました。
 んごろんごろ、こくりつこうえ〜ん。
 河内は訳が分かりませんでした。
「何のマネだ?」
「見なさい! これがあんたの娘の将来です!」
「何だと?」
「俺に大金を貸さないと、あんたの娘も『米俵ごろごろ女』になっちゃいますよっ!」
 ごろりんごろりん、りんごかわいや〜。
「!」
 河内は戦慄
(せんりつ)しました。
 新妻は泣いて頼みました。
「私からもお願い! お父さん、お金出してっ!」
 そして、ごろつきの嫁を思いっきり指差して号泣しました。
「私……、こんなふうになりたくありませんっ!!」
「ううう……、くうぅぅぅ〜……」
 河内は歯ぎしりしました。
 恨めしそうに俺をにらんできました。
 もはや俺に大金を渡すしかありませんでした。

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