1.七手詰(神頼み)

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加藤一二三→藤井聡太
1.七手詰(神頼み)
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4.一手詰(奉公)→父母投了

 父はいい人だった(飲兵衛だが)
 母は優しかった。
 兄も姉も優秀だった。
 が、俺はそうではなかった。
 普通だと思うが、家族と比べると、どうしてもワルに見えた。

「おもしろくねえ!」
 俺はグレた。
 いろいろ悪さをしてやった。
 近所の人はうわさした。
「関根さんちはみんないい人だねー」
 で、決まってこう付け足すのだった。
「金次郎
(きんじろう)以外は」
 俺はますます悪さをした。
 そのため、俺の評判はますます下がった。
「関根さんちの金次郎はワルで怠け者」
「善人で働き者だった二宮
(にのみや)金次郎(尊徳)とは正反対だ(「忖度味」参照)
 俺は「鬼子」と呼ばれるようになった。

 父は悩んだ。
 近くの馬頭観音に俺を連れて行った。
 父は馬頭観音にお願いした。
「どうかこの子がいい子になりますように」
「ならねーよ」
 ガバッ!
 俺は前をまくった。
 ぴらりーん。
 父は嫌な予感がした。
「なっ、何をするつもりだ!?」
「こうだ」
 俺は気持ちよくおっぱじめた。
 ジョン!ジョン!ジョンウーン!
 馬頭観音は黄色いシャワーを浴びた。

 父は俺を近くの日枝神社にも連れて行った。
 チャラリン。
 ガラガラ。
 パン!パン!
 賽銭
(さいせん)箱に銭を入れて鈴を鳴らして拍手(かしわで。柏手)を打つと、
「どうかこの子がいい子になりますように」
 と、お願いした。
「ならねーよ」
 バッ!
 俺は木の棒を拾った。
 背後のマツの木からヤニが垂れていたので、それを棒の先に付けた。
 ねちねち。
 そして、賽銭箱の前に立った。
 父は嫌な予感がした。
「なっ、何をするつもりだ!?」
「こうだ」
 ズバ!
 俺は賽銭箱に棒を差し入れた。
 ぬ〜。
 抜き出したところ、ネバネバの先っぽで銭をゲットできた。
「へへー」
 俺は銭を懐に入れた。
 父は怒った。
「何てことを!返しなさいっ!」
「やーだね」
 俺は逃走した。

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