3.三手詰(学校)

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加藤一二三→藤井聡太
1.七手詰(神頼み)
2.五手詰(寺子屋)
3.三手詰(学校)
4.一手詰(奉公)→父母投了

 父母はくじけなかった。
「これならどうだ」
 めげずに次の手を繰り出してきた。
 俺を学校に入れたのである。
「学校には寺と違って教育のプロ教師がいるからな」

 それでも、俺は勉強しなかった。
「貴様ら、今日もやるぞ」
「アレか?」
「アレだよアレ」
 悪友たちと将棋ばかりしていた。
 校内で強い相手を探しているうちに、校長が最強だと分かった。
 俺は校長室に入り浸って校長と将棋を指すようになった。
「おお、きたか」
 校長も悪い気はしなかった。
「金次郎は校長のお気に入り」
 そのため、俺が公然と遊んでいても、しかる教師はいなくなってしまった。

 ほどなくして、最強の校長ですら俺にかなわなくなった。
 俺はもっと強い相手を求めて村内を回った。
 弁当を持って他校や他村に「遠征」に出かけることもあった。

 遠征中、母が学校に訪ねてきた。
「うちの子、勉強しているでしょうか?」
 校長はうまく取り繕ってくれた。
「ああ、してるよ」
「ではちょっとのぞかせて――」
「ああっ! 今は見に行かないほうがいい! 熱心に勉強しているときに気を散らせてはダメだ」
「ですか」

 でも、ちゃちな工作は長くは続かなかった。
 俺のうわさが父母の耳に届いてしまった。
「東宝珠花村
(ひがしほうじゅばなむら。千葉県野田市)にめっぽう将棋が強いガキがいるそうな」
「あ、それうちの村」
「そんな子いたかな?」
「この辺の村々では大人ですら誰もかなわなくて、『宝珠花小僧』と呼ばれているそうな」
「ふーん」
「ちなみにどんな名前の子?」
「確か、姓はセキネ、名はキンジロー――」
「え!セキ、セキッ、キンジロー!?」
「えーっと、あーっと、そのその――、将棋なんて、いつどこでやってるんですか!?」
「真っ昼間っから、ほうぼうで」
「!」
「!」
 父は天を仰いだ。
 母は泣いた。
 俺は学校をやめさせられた。

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