5.密会!大伯皇女!!

ホーム>バックナンバー2012>5.密会!大伯皇女(おおくのおうじょ・おおくのひめみこ)!!

金正日は病死したのか?
1.感動!吉野会盟!!
2.昇天!天武天皇!!
3.略奪!石川郎女!!
4,看破!山辺皇女!!
5.密会!大伯皇女!!
6.非情!持統天皇!!

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現在の訳語田(奈良県桜井市)周辺

 新羅僧行心は、足しげく訳語田(おさだ。奈良県桜井市)にある大津皇子宅に通った。
「何度来ても同じだ!」
 そのたびに大津皇子は追い返した。
 大津皇子は部下の帳内
(舎人)・礪杵道作(ときのみちつくり)に話してみた。
「おまえは行心の言うことをどう思う?」
 道作の答えは意外であった。
「私も皇子は立つべきだと存じます」
「何だと!?」
皇子の立場の危うさは、飛鳥のみんながうわさしています。そう遠くないうちに無実の罪を着せられて処刑されるのではないかと……」
「……」
「今すぐ戦えとは申しません。しかし、身は守るべきです。女帝に殺されないためには何か対策を講ずるべきなんです。たとえば皇子のお父君や古人大兄皇子は吉野へ逃れました。古人皇子は殺されましたが、皇子のお父君は生き延びて天下を取ったではありませんか。このまま飛鳥に近いところにいては危険過ぎます。私の実家は美濃の礪杵郡
(土岐郡。岐阜県多治見市ほか)にあります。山中ですので隠れ場所には困りません。どうか美濃へ」
 大津皇子はしばらく考えた後、決断した。
「分かった。とりあえず身を隠そう」
「それが正解だと思います」
「じゃあ、準備して明日にでも出立する」

 美濃行きの前に大津皇子は川島皇子と会った。
 吉野での会盟にも参加した、あの従兄弟である。
「おう。久しぶり」
 川島皇子はにこやかであった。
「突然どうした?」
「しばらく会えないから、ツラを見にきた」
「まあ、見せるほどのツラじゃないが、どこ行くの?」
「旅」
「どこへ?」
 大津皇子は笑ってごまかした。
「僕たちって、兄弟そのものだよな?親友だよな?仲良しだよな?」
「そのとおりだ。何ら否定するところはない」
吉野の会盟、覚えているか?」
「覚えてるよ。懐かしいぜ」
「あのころはみんな仲良しだった……」
「だった?」
「ああ。今では僕と異母兄の仲を裂こうとする連中がいる。君もうわさとかで何か聞いていないか?」
「うわさはうわさだ。無責任な連中がおもしろがって勝手にあることないこと話を作っているに過ぎない。オレたちは仲良しだ。人は疑うより、信じたほうが気分がいい」
「僕も信じたい。でも、今はしばらくの間身を隠すことにする。美濃へ行って静かに暮らしていたい」
「止めはしないさ。父親を亡くして落ち込んでいるんだろう。元気になったらまた飛鳥に戻って来い」
「うん」
「変なことは考えるなよ」
「分かってる。じゃあな」
「またな」

 大津皇子にはもう一人会いたい女がいた。
 その女は、美濃への途中、伊勢の斎宮
(さいぐう。三重県明和町)に住んでいた。
 大津皇子の実姉で、斎王
(さいおう・いつきのみこ。斎宮・伊勢斎王)の大伯皇女(おおくのおうじょ・ひめみこ。大来皇女)である。
「姉さん!」
「どうしたの?ここはたとえ弟でも男は来てはいけないところなのよ」
「分かってます。分かってますが、別れを告げに来ました」
「別れって、ま、まさか、父上の後を追うとか……!?」
 すでに天武天皇の死は伝えられていた。
「違います。しばらく美濃で身を隠します」
 大伯皇女はそれでも不安であった。
「身を隠した後、どうするつもり?」
「……。飛鳥へ帰りますが……」
「父上は生前、美濃ほか東国で兵を募って反乱を起こしたわ。もしかして、そのような危ないことを考えているんじゃないよね?」
「考えていません。今のところは」
「……」
「僕も天皇皇子です。皇位に未練がないわけではありません。運が悪かったんです。もう少し母が長生きしていれば、僕が太子になれたのに……」
「そんなことは考えてはいけません」
「もう考えません。僕なんか、美濃の山奥でいじけて暮らればいいんです」
美濃へ行ってはいけません」
「どうして?」
美濃へ行けば、おそらくあなたは野心のある連中にたきつけられるわ」
「たきつける人はどこにでもいます。僕が乗らなければいいだけの話です」
「いいえ。行ってはいけません。飛鳥へ帰りなさい。父上と同じような行動に出れば、女帝の疑いを買います。自ら破滅への道を歩んではいけません」
「……」
飛鳥へ帰りなさい。飛鳥でおとなしくしていれば、女帝も疑うことはありません。」
「分かった。帰るよ」
「道を変えないように私が途中まで送っていきます」
「信用ないですね」
 大伯皇女は本当にしばらくついてきた。
 このときの彼女の歌が『万葉集』に残っている。

  我が背子(せこ)を大和へ遣るとさ夜更けて暁(あかとき)(つゆ)に我が立ち濡れし

  ふたり行けど行き過ぎかたき秋山をいかにか君がひとり越ゆらむ  

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