1.信じたい

ホーム>バックナンバー2022>令和四年11月号(通算253号)宗教味 仏教公伝1.信じたい

宗教はカネがかかるのか?
1.信じたい
2.伝えたい
3.逢いたい

百済を裏切るのか?」
 百済国王・聖明王に問われ、の将軍・大伴狭手彦
(「大伴氏系図」参照)は答えに詰まった。
 聖明王は嘆いた。
百済高句麗に攻められ、新羅にも裏切られて攻撃されている。この上、にも裏切られてしまったら、百済は滅亡するしかあるまい」
「……」
「そなたはの将軍でありながら、長年我が百済のために戦ってきてくれた。そんなそなたが朕
(ちん)を裏切るはずはない。朕はそなたを信じたい」
 狭手彦は重い口を開いた。
「私は人ですが、父
(大伴金村。「国境味」参照)ともども祖国を追われ、任那で暮らしている身です。陛下に仕えて数々の戦いにも参加し、褒美をもらって裕福に暮らしております。この私が陛下を裏切るわけがありません。ただし、御存知のように任那は一枚岩ではありません。親百済派と親新羅派、親倭派が混在している状況にあります。昨日の敵が今日には味方になり、今日の味方が明日には敵になる状態なのです。いったい誰が敵なのか味方なのか、軍を束ねている私ですらよくわかっていません」
「なるほど。親倭派がをあおっていることも考えられるな?」
「御意」
「朕は戦争は嫌いだ。今すぐにでも戦争をやめさせたい」
「私もです。ていうか、誰でもでしょう」
「本当はみんなそう思っているのに、なぜ戦争をするのか? 何ゆえ暴力に訴えたがるのか?」
「法では抑え切れないからでしょう」
「なぜ法を守ろうとしないのか?」
「欲望が理性を超えてしまう連中がいるからでしょう」
「欲望を抑えるのが理性ではないのか?」
「法ではどうにもならない理不尽が生じた時などに、理性が限界突破してしまうヤカラが現れてしまうものかと」
「何か、一線を越えてしまう連中を抑えられる魔法とかはないのか?」
「ないでしょうね」
「絶望するな! 朕は戦争をやめさせたいのだ! 何とかしてやめさせる方法を考えてくれ!」
「……。うーん、あるとすれば、神仏に祈るぐらいでしょう」
「それな!」
 聖明王はひらめいた。
「――戦争をやめさせるには、神仏に祈ればいいのだっ!」

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