2.路上パフォーマンス | ||||||||||||||
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宮本武蔵は熊本城下で路上パフォーマンスを始めた。
「はーい、みなさま、お立ち会い、お立会いー」
「なんだ?なんだ?」
「何が始まるんだ?」
「おもしろいんか?」
町人が集まってくると、武蔵は宮本伊織に上を向かせて、その額に米粒を置いた。
「今から真剣を振り下ろしてこの米粒を切ってみせまーす。安心してください。この子の額は切らずに、米粒だけを切ってみせますから」
町人たちはざわめいた。
「できるわけないじゃないか!」
「失敗したらこの子はどうなるんだ?」
「これ以上の虐待はねえ!」
「失敗しませんので大丈夫ですって!」
武蔵は刀を抜いた。
そして、やった。
ちゃっ!
ブン!
ぱきーん!
町人たちがのぞき込むと、米粒は真っ二つになっていた。
伊織の額には傷はなく、ニコっと笑った。
「スゲー!」
町人たちは喝采(かっさい)した。
「お見事!」
「達人技じゃねえか!」
「でも、うちの子にはこんな危ないことはさせない」
伊織が町人たちの間を箱を持って回ると、そこそこ銭がたまった。
「よし、本日の食事代確保!」
町人たちが帰り、二人が銭を片付けていると、武士が一人近づいてきた。
「いいもの見せてもらったぜ」
武蔵はお辞儀した。
「ありがとうございます」
「おぬし、タダ者ではあるまい」
「町人だましの興行ですよ」
「どこぞの名のしれた剣豪ではあるまいか?」
「ははは」
「そうそう。今朝、天下の剣豪・宮本武蔵がお城へ仕官を願い出てきたそうだ。勝手にキレて帰っていったそうだがな。会ってみたかったものだ」
「運が悪うございましたな」
「いや、悪くはない。なぜならその宮本武蔵は、今は私の目の前にいる」
「……」
「そうだ。その眼光、その容貌(ようぼう)、その殺気――。宮本武蔵でなくて誰であろうか?」
「拙者は身分を隠しているつもりはない。今朝も堂々と名乗って仕官しにきた。あいにく断られたがな」
「面接した侍はおぬしの技を見たのか?」
「見ていない」
「見れば気が変わったであろうに」
「後の祭りだ」
「まだ祭りは終わっていない」
「と、いうと?」
「申し遅れた。私は肥後熊本藩で剣術指南役をしている村上吉之丞(むらかみきちのじょう)と申す者だ」
「剣術指南役ということは――」
「その通り。おぬしが仕官できるかどうかは私次第」
「ぜひぜひ!」
「ただし、条件がある」
「どんな?」
「仕官したければ、私と決闘して勝つことだ」
「ほう」
「熊本には弱い剣術指南役などいらぬ」
「道理である」
「決闘の日時は後日知らせる。都合の悪い日はあるか?」
「いつでもどうぞ」
「ならば以上だ。連絡を待て」
立ち去ろうとした吉之丞に、
「待たれよ」
武蔵が呼びかけた。
「なんだ?」
「解せぬことがある。拙者は仕官したいがために貴殿と決闘する。貴殿は何のために拙者と決闘したがるのか?」
「私は剣術指南役になってからまだ日が浅い。私の名を知る者はほとんどいない。おぬしを倒すことができれば、熊本のみならず、天下のこの名をとどろかすことができる」
「なるほど」
武蔵は納得した。
吉之丞は去っていった。
伊織はワクワクした。
「ちゃんがアイツと決闘!? 絶対勝てるよね?」
「ああ。俺は生涯で六十数回の決闘したが、ただの一度も負けたことがない」
「わーい、仕官だ仕官だー。これでもう生傷絶えない日雇い労働ともオサラバだー」
「……」