ホーム>バックナンバー2022>令和四年4月号(通算246号)隆景味 小早川家乗っ取り1.小早川正平×田坂義詮
「田坂」
「何でしょうか?」
「この戦い(第一次月山富田城の戦)で、わしは殿軍(しんがり)を任された」
「何と!」
「大内に殿軍を任された毛利は、我が小早川に殿軍の殿軍を任せた」
「またまた毛利の意地悪ですか!」
「わしは死ぬ」
「殿様は死にませぬ!」
「いや、絶対に死ぬ。殿軍とはそういう役目だ。殿軍の殿軍であれば、十の十、死ぬしかあるまい」
「それがしが死なせませぬ!」
「勘違いしてはならぬ。そちの仕事は家老として小早川家を守ることだ。我が嫡子・又鶴丸(またつるまる。小早川繁平)を後見することだ。又鶴丸はまだ二歳。そちがいなければ生きられまい」
「殿様もまだ二十一歳ではありませぬか! 逃げましょう! 殿軍なんかしなくてもいいじゃないですか!
小早川に嫌がらせをし続ける大内や毛利を守る義理なんてありませぬ!」
「いや、わしは大内も毛利も守る」
「なぜですか?」
「ここで逃げれば、また尼子(あまこ・あまご)に裏切ったと疑われて監禁されてしまう」
「殿様は尼子に寝返っていません! あれは毛利が作った偽情報を大内が信じただけじゃないですか!」
「いや、今度は監禁されるだけではすまず、命を取られるかも知れぬ」
「取られませんって!」
「どのみち死ぬなら、華々しく戦場で散る!」
「ダメですって!」
「さらばだ田坂! 後は任せたっ! うわー!」
「殿っ! 死んではなりませぬぞっ!」