4.田坂義詮×日名内玄心 | ||||||||||||||
ホーム>バックナンバー2022>令和四年4月号(通算246号)隆景味 小早川家乗っ取り4.田坂義詮×日名内玄心
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「何しに来た?」
「登城しにきた」
「何のために?」
「無礼者! それがしは家老の田坂全慶だ! 仕事に決まっているではないか!
ここ高山城はそれがしの職場だ! 貴様こそ誰なんだ?」
「私は小早川隆景の家臣、日名内玄心」
「何だと? なぜ小早川本家(沼田小早川家)居城の門番を、分家(竹原小早川家)の家来がしているのだ?」
「我が主君がこの城を接収したからだ」
「そんな勝手が許されるものか! この城は小早川本家の当主・小早川又鶴丸改め繁平様の居城であるぞっ!」
「知らないのか? 小早川家は一つになったのだ。沼田・竹原両家の婚姻によってな」
「両家の婚姻だと?」
「そうだ。竹原の隆景様と沼田の正平の娘が結婚したことによって隆景様が統一小早川家の当主になったのだ」
「何だって! お嬢様が拉致られたのは、それが目的だったのか!」
「拉致とは物騒な物言いだな。嫁入りと言え」
「何が嫁入りだ! 拉致としか言いようがないではないか! あのお嬢様が長年意地悪されてきた毛利の息子なんかとの結婚を承諾するはずがない!」
「女心はとは、わからないもんですな〜」
「ふざけるなっ! 殿様に会わせろっ!」
「隆景様はここにはいらっしゃらない」
「隆景じゃねえー! それがしの殿様は繁平様だけだ!」
「シゲヒラ? そんな人もここにはいない」
「ま、まさか、繁平様もどこかに拉致ったのか?」
「あー、思い出した。シゲヒラとやらは、近々どっかの寺で出家してもらうそうだ。病弱で盲目なヤツに、小早川家の当主は務まらないからな」
「繁平様は病弱でも盲目でもない! 健康で聡明なお方だ! 病弱で盲目というのは毛利が作った偽情報だ!」
「どちらにせよ小早川家の当主は隆景様だ。当主は二人もいらない」
「おのれ! 毛利は竹原に続いて小早川本家も乗っ取るつもりかっ!」
「こらこら。乗っ取りではない。事業承継って穏やかに言ってほしいものだな」
「ふざけるんじゃねえー! 何も知らないと思っているのか! 毛利が拉致ったのはお二人だけじゃない! 小早川領の民を次々と毛利の領内に強制連行しているそうじゃないか!」
「その件については、私は担当じゃないので知らない」
「その一方で沼田の家臣たちには金品を贈り、家中の分断を図っていやがる!」
「調略なんてどこの大名や国人でもしていることだ。――おぬしのところにも金品は回ってきただろう?」
「回ってきたが、断った」
「なるほど。だからこんなふうに話がわからないんだな」
「毛利が沼田を手に入れたい理由はわかっている。沼田市(ぬたのいち)の利権を手に入れたいのだ」
「よく御存知だな。御存知に決まっているよな。今現在、沼田市の利権を握っているのは貴様だからな」
「……」
「貴様は沼田小早川家の忠臣でもなんでもない。ただただ利権を奪われるのが嫌な強欲なヤツだ」
「……」
「しかし、貴様の利権も、今現在で終了だ」
「何だと?」
「あの世に逝け!」
「!」
ドン! ガッシ! くびすじぶっしゃー!
* * *
天文十六年(1547)一月十六日、小早川隆景の相続に反対した田坂義詮らが高山城で一斉に粛清された。
田坂の享年は四十六。墓は彼の居城だった稲村山城跡(三原市)にあるという。
[2022年3月末日執筆]
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