5.看破! 妻女山脱出!

ホーム>バックナンバー2005>5.看破!妻女山脱出!

日本は何をすべきか?
1.出陣! 春日山!
2.対陣! 川中島!
3.合流! 海津城!
4.必殺! キツツキ戦法!
5.看破! 妻女山脱出!
6.恐怖! 車懸の戦法!
7.突撃! 最後の手段!
  

 その日の夕方、詩吟を楽しんでいた上杉政虎のもとに、偵察の者がやって来て告げた。
「海津城から煙がたくさん上がっています!」
「何!?」
 政虎が海津城のほうを見てみると、なるほど飯を炊く煙がたくさん立ち上っている。
 政虎は考えた。
(おかしい。夕飯だけにしては量が多すぎる。たくさん飯を炊くということは、近く動いてくるということであろう。それも日があるうちに煙を立ち上らせるということは、明朝までに動いてくるということだ。夜陰にまぎれて動いてくるということはどういうことか? 夜襲に違いない! 武田信玄は今夜、ここに夜襲を仕掛けてくる!)

 政虎は看破した。しかも、彼が看破したのは、それだけではなかった。
 彼は目を閉じた。琵琶を鳴らしながら思案した。
(待て。これはただの夜襲ではない。いくら我々の不意を突くとはいえ、あの信玄が地形的に不利なこの山に総攻撃を仕掛けてくることはありえない。攻撃は見せかけだけだ! 信玄は決戦場を別に用意しているはずだ。我が軍の動きを読み、どこか通り道で待ち伏せているはずだ!)
『孫子』にもこうある。

「およそ先に戦地に処(お)りて敵を待つ者は佚(いつ。気楽)し、後(おく)れて戦地に処りて戦いに赴く者は労す。ゆえに善く戦う者は人を致して人に致(思いのまま)されず、よく敵人をして自ら至らしむる者はこれを利すればなり」

 政虎は目を開けると、川中島周辺の地形を見回してみた。
(どこだ? 信玄は我が軍がどこを通ると予測しているのだ? 我が軍がどうしても通らなければならない場所は?)
 あちこち目をやっていた政虎の視線が、ある地点でピタリと止まった。
(八幡原!)
 疑惑はすぐに確信に変わった。
(間違いない! 信玄は八幡原で待ち伏せている!)
 政虎はキツツキ戦法を完璧
(かんぺき)に看破したのである。彼は笑いが込み上げてきた。嬉しさを隠し切れなかった。
(なるほど。信玄は八幡原で我が軍を殲滅
(せんめつ)させるつもりなのか。ふふ、そうはさせるか! ならば我は、別働隊が来る前に本隊を壊滅させるまでのこと! 見ておれ信玄! これが戦いだというものを存分に思い知らせてくれるわ! そして貴様こそ、八幡原に散るがいいっ!)
 でも、全軍には違うことを告げた。
「このままにらみ合いを続けていても無駄だ。ひとまず川中島の北にある善光寺に移動する」

 この夜、亥の刻頃(午後十一時)、上杉軍一万三千は密かに妻女山を下山し、千曲川を北に渡った。
 まだ山に残っているように見せるため、篝火
(かがりび。照明)をそのままにし、多くの旗指物も残しておいた。

 軍師・宇佐美貞行(うさみさだゆき。定満・義勝。越後琵琶島城主)政虎に言った。
「今夜は冷えますね。明朝は霧になるでしょうな」
 政虎は予言した。
「ふふふ。霧は信玄の味方にあらず。明日は八幡原に毘沙門天が舞い降りるであろう!」

歴史チップス ホームページ

inserted by FC2 system