ホーム>バックナンバー2013>1. 醍醐天皇(だいごてんのう)vs三善清行(みよしきよゆき)
「弱いのう。何度やっても朕(ちん)の勝ちだ」
「私が弱いのではありません。帝(みかど)がお強いのです」
「わざと負けているわけではあるまいな?」
「ふん。私は上の者にこびへつらったりはしませんよ」
「そうだったな」
「そうですよ!悔しいですが、私の強さは本気を出してもこの程度なんです。ウワー!また負けたー!」
ジャラジャラジャラ!
内裏で碁を打っている者がいた。
醍醐天皇(「天皇家系図」「詐欺味」など参照)と三善清行(「三善氏系図」「スト味」など参照)である。
「では、本日はこのくらいにしといてあげます」
「なんだ。もうやめるのか?」
「ええ。何度やっても勝てそうにありませんので、もう少し研究してきます。やはり、最強の名人を師にされているお方は違いますねー」
最強の名人とは寛蓮(かんれん)。俗名・橘良利(たちばなのよしとし)。
肥前の生まれで、囲碁のうまさが先帝・宇多天皇(「朦朧味」など参照)の目にとまり、宇多・醍醐二代に渡って天皇の囲碁師範を務めているベテラン教師である。
醍醐天皇は言った。
「確かに師は最強だ。しかし、朕との対局は勝ったり負けたりで互角に近い。もっとも朕は先手二目置き(ハンディー)をさせてもらっているが」
「いや、それでもすごいですよ。あの碁聖に勝ったり負けたりできる人はほかに聞いたことがありませんからね。それこそヤツはわざと負けているんじゃないですか?」
「そうだとしたらおもしろくないな。やるからには本気を出してもらいたいものだ」
「ヤツに本気を出させる方法がありますよ」
「どんな?」
「『賭(か)け碁』ですよ。豪華な賞品を賭けるとなれば、ヤツは本気を出すしかありません」
「ふーん、師が本気になるような賞品って、何だろなあ?」
「アレですよ」
清行が指差したのは、醍醐天皇愛用の枕であった。
それはただの枕ではなかった。
純金製の枕――。言い換えると、でっかい金塊(きんかい)である。
ただし、当時枕は睡眠時に魂が宿るものとされていたため、中身は空洞だったのかもしれない。
醍醐天皇は気が進まなかった。
「あれは、さすがに、ちょっと、おしいな〜」
「では、ヤツの本気を出させたくないんですか?」
「うーん」
それもおもしろくなかった。
清行はあおった。
「勝てばいいんですよ!勝てば奪われたりはしません」
「でも〜」
「帝!そんな意気地なしでどうするんですか!帝は菅家(かんけ。菅原道真)の怨霊(おんりょう)と戦っているんでしょう!怨霊も勝負も、強気で攻めてねじ伏せればいいんですよっ!(「受験味」「入試味」「教育味」参照)」
醍醐天皇はその気になった。
「わかった。朕は帝だ。絶対に臣下に負けるわけにはいかないのだ!たとえ寛蓮が本気を出してきても、堂々とこの手でねじ伏せてくれよう!」
「ヨッ!御立派!」