2.醍醐天皇vs 寛 蓮 | ||||||||||||||
ホーム>バックナンバー2013>2.醍醐天皇(だいごてんのう)vs寛蓮(かんれん)
|
醍醐天皇は内裏に寛蓮を呼びつけた。
「碁の対局をしたい」
「望むところですが」
蔵人(くろうど。「詐欺味」参照)らが碁盤と碁石を用意した。
二人は碁盤を挟んで座った。
「真剣勝負だぞ」
「無論」
「いや、今日こそは真剣勝負だぞ。いつもの師は本気を出していないと『この者』が申すのでな」
わきには三善清行も控えていた。「この者」とは、清行のことである。
「ほほっ」
寛蓮は笑って清行を見た。
清行は縮こまった。
「ばらさなくても〜ぅ」
「そこでだ」
醍醐天皇は蔵人に黄金の枕を持ってこさせた。
「――師の本気を出させるために賭け対局とする。朕が負けたらこの黄金の枕を師にやろう」
寛蓮の瞳に、黄金の枕の輝きが乗り移った。
「おほほっ!これはすごい!このような豪勢な枕、生まれて初めて拝見いたしました!」
「そりゃそうだろう。この世に二つのない純金製の枕だ」
「どうもありがとうございます!」
「まだやったわけではない。朕は負けぬため、やれぬ」
「えへへ。もういただいたも同然なんでっ」
「朕は絶対に負けぬ!」
「では、この勝負、三善卿に見届けていただきましょう」
「了解」
こうして醍醐天皇と寛蓮の対局が始まった。
例の醍醐天皇の先手二目置きである。
「では、次は私ですね」
寛蓮は白石を打った。
パチ。
「勝つのは朕だ」
醍醐天皇は黒石を打った。
ポチ。
「金の枕はいただき」
バチッ!
「誰がやるか」
ボチッ!
進むにつれ、双方力が入ってきた。
「これならどうだ?」
バチコーン!
「こうだ!」
ドチコーン!
「黄金の枕はもらったー!」
カプリコーン!
「やるもんかー!」
ジャイアントコーン!
「しゃらくせえぇー!」
キャラメルコーン!
醍醐天皇は武者ぶるいした。
(強えぇぇぇ〜!)
明らかに、いつもの寛蓮とは様子が違っていた。
眼光、手筋、息遣い、覇気――。すべてにおいて燃えたぎっていた。
(こっ、こっ、これが寛蓮の本気というものか〜!そうよ、朕はこれを待っていた!)
対する醍醐天皇もさえていた。
打つ手打つ手に神が舞い降りたようにひらめいた。
(今日の朕は自分史上最強だ!朕を最強たらしめているもの……)
醍醐天皇はわきを見た。
そこに黄金の枕があった。
(すべては、これを奪われたくないため……)
視線を戻す醍醐天皇に、寛蓮の視線が重なった。
寛蓮も黄金の枕を見ていたのである。
二人は同時にニヤッとした。
「推参!」
ビッチャーン!しゅうしゅう!
醍醐天皇が打った石から煙が上がった。
「何のこれしき!」
ベッチーン!パチパチ〜ィ!
寛蓮の打った石からは火花が飛び散った。
清行はビビッた。
「す、すげえ……」
「これならどうだ!」
バッチャーン!もくもくもく〜!!
「とどめだ!」
チッチャイオッサーン!びちびちびち〜!!
勝負は終わった。
勝ったのは寛蓮であった。
「では、遠慮なくいただきますよっ!」
「うぬぬ……」
寛蓮は黄金の枕を抱えて帰っていった。
放心状態の醍醐天皇を、清行が慰めた。
「帝もよく頑張りましたよ〜」
醍醐天皇はしみじみと言った。
「おもしろかった……。寛蓮との真剣勝負は最高だった……。師とは数えきれないほど対決してきたが、今日ほど白熱したものはなかった……」
「ですか」
「できればもう一度、師と真剣勝負がしたい」
「無理でしょう。ヤツが本気を出してきたのは、黄金の枕がかかっていたからです。次にまた本気を出させるためには、黄金の枕以上の賞品が必要です。そんなものがあるんですか?」
「ない」
「だったらもう本気を出させるのは無理でしょう」
「いやだ。朕はまた真剣勝負をしたいんだ!」
「無理ですって!」
「そんなことはない。朕には策がある」
「どんな?」
醍醐天皇は、
「下々のみなさん。ちょっとちょっと」
と、蔵人たちを集めて命令した。
「おまえたち、強盗になれ」
「はあ?」
「寛蓮の帰りを襲って黄金の枕を取り戻してこい!」
「!」
「で、取り戻した黄金の枕を、次回の対局の賞品にする」
「!!」
「わかったら早く襲いに行け!」
「ははっ!」
蔵人たちは任務遂行のため散っていった。
清行は疑問に思った。
「えーっと、こういうのって、そのその、反則じゃないでしょうか〜?」
醍醐天皇は、その疑問を一言で解決してあげた。
「うるせえ」