2.醍醐天皇vs 寛 蓮

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六十年前に取り違えられた赤ちゃん
1.醍醐天皇vs三善清行
2.醍醐天皇vs 寛 蓮
3. 寛 蓮 vs下々のみなさん

 醍醐天皇内裏に寛蓮を呼びつけた。
「碁の対局をしたい」
「望むところですが」
 蔵人
(くろうど。「詐欺味」参照)らが碁盤と碁石を用意した。
 二人は碁盤を挟んで座った。
「真剣勝負だぞ」
「無論」
「いや、今日こそは真剣勝負だぞ。いつもの師は本気を出していないと『この者』が申すのでな」
 わきには三善清行も控えていた。「この者」とは、清行のことである。
「ほほっ」
 寛蓮は笑って清行を見た。
 清行は縮こまった。
「ばらさなくても〜ぅ」
「そこでだ」
 醍醐天皇は蔵人に黄金の枕を持ってこさせた。
「――師の本気を出させるために賭け対局とする。朕が負けたらこの黄金の枕を師にやろう」
 寛蓮の瞳に、黄金の枕の輝きが乗り移った。
「おほほっ!これはすごい!このような豪勢な枕、生まれて初めて拝見いたしました!」
「そりゃそうだろう。この世に二つのない純金製の枕だ」
「どうもありがとうございます!」
「まだやったわけではない。朕は負けぬため、やれぬ」
「えへへ。もういただいたも同然なんでっ」
「朕は絶対に負けぬ!」
「では、この勝負、三善卿に見届けていただきましょう」
「了解」

 こうして醍醐天皇と寛蓮の対局が始まった。
 例の醍醐天皇の先手二目置きである。
「では、次は私ですね」
 寛蓮は白石を打った。
 パチ。
「勝つのは朕だ」
 醍醐天皇は黒石を打った。
 ポチ。
「金の枕はいただき」
 バチッ!
「誰がやるか」
 ボチッ!
 進むにつれ、双方力が入ってきた。
「これならどうだ?」
 バチコーン!
「こうだ!」
 ドチコーン!
「黄金の枕はもらったー!」
 カプリコーン!
「やるもんかー!」
 ジャイアントコーン!
「しゃらくせえぇー!」
 キャラメルコーン!  
 醍醐天皇は武者ぶるいした。
(強えぇぇぇ〜!)
 明らかに、いつもの寛蓮とは様子が違っていた。
 眼光、手筋、息遣い、覇気――。すべてにおいて燃えたぎっていた。
(こっ、こっ、これが寛蓮の本気というものか〜!そうよ、朕はこれを待っていた!)
 対する醍醐天皇もさえていた。
 打つ手打つ手に神が舞い降りたようにひらめいた。
(今日の朕は自分史上最強だ!朕を最強たらしめているもの……)
 醍醐天皇はわきを見た。
 そこに黄金の枕があった。
(すべては、これを奪われたくないため……)
 視線を戻す醍醐天皇に、寛蓮の視線が重なった。
 寛蓮も黄金の枕を見ていたのである。
 二人は同時にニヤッとした。
「推参!」
 ビッチャーン!しゅうしゅう!
 醍醐天皇が打った石から煙が上がった。
「何のこれしき!」
 ベッチーン!パチパチ〜ィ!
 寛蓮の打った石からは火花が飛び散った。
 清行はビビッた。
「す、すげえ……」
「これならどうだ!」
 バッチャーン!もくもくもく〜!!
「とどめだ!」
 チッチャイオッサーン!びちびちびち〜!!
 勝負は終わった。
 勝ったのは寛蓮であった。
「では、遠慮なくいただきますよっ!」
「うぬぬ……」
 寛蓮は黄金の枕を抱えて帰っていった。

 放心状態の醍醐天皇を、清行が慰めた。
「帝もよく頑張りましたよ〜」
 醍醐天皇はしみじみと言った。
「おもしろかった……。寛蓮との真剣勝負は最高だった……。師とは数えきれないほど対決してきたが、今日ほど白熱したものはなかった……」
「ですか」
「できればもう一度、師と真剣勝負がしたい」
「無理でしょう。ヤツが本気を出してきたのは、黄金の枕がかかっていたからです。次にまた本気を出させるためには、黄金の枕以上の賞品が必要です。そんなものがあるんですか?」
「ない」
「だったらもう本気を出させるのは無理でしょう」
「いやだ。朕はまた真剣勝負をしたいんだ!」
「無理ですって!」
「そんなことはない。朕には策がある」
「どんな?」
 醍醐天皇は、
「下々のみなさん。ちょっとちょっと」
 と、蔵人たちを集めて命令した。
「おまえたち、強盗になれ」
「はあ?」
「寛蓮の帰りを襲って黄金の枕を取り戻してこい!」
「!」
「で、取り戻した黄金の枕を、次回の対局の賞品にする」
「!!」
「わかったら早く襲いに行け!」
「ははっ!」
 蔵人たちは任務遂行のため散っていった。
 清行は疑問に思った。
「えーっと、こういうのって、そのその、反則じゃないでしょうか〜?」
 醍醐天皇は、その疑問を一言で解決してあげた。
「うるせえ」

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