★ 置いてけ堀 | ||||||||||||||
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「お化けが出るぞ」
そんなうわさがあった。
「あの堀で魚を捕ると、帰り際に堀の中から『置いてけ〜』と、不気味な声で呼び止められるんだ」
脅す者もいた。
でも、金太(きんた)は見抜いていた。
(そんなことはない。あの堀はよく釣れるから、悪いうわさを流して人を寄り付かせないようにしているだけだろう)
金太は「置いてけ堀」で釣りを始めた。
案の定、魚はたくさん釣れた。
金太は確信した。
(やっぱりそうだ。こういう理由だったんだ。そのくらいのことだぜ)
現在の「置いてけ堀」(東京都墨田区)周辺 |
びくがいっぱいになったので、金太は帰ろうとした。
でも、帰れなかった。
何者かに背中を引っ張られていたからである。
(え?)
金太はギョッとなった。恐怖がじわじわ舞い上がってきた。
(ま、まさか……。こっ、これが、『置いてけ堀』のしわざ!?)
金太は振り返った。
誰もいなかった。
金太の恐怖は沸騰した。
(や、や、やっ、やっぱりー!!)
金太はバタバタした。絶叫した。
「いやだー!帰るんだー!家に帰りたいんだぁー!!」
金太は釣竿(つりざお)を忘れていたことに気が付いた。
「そうだ!釣竿は?」
釣竿は桟橋に引っかかっていた。
それを引っこ抜いて背負って帰ろうとすると、難なく歩けた。
「あれ?」
誰にも背中を引っ張られることなく、スタスタ帰ることができた。
「どうなってるんだ?」
金太が背中を見ると、釣針が引っ掛かっていて、血がにじんでいた。
つまり、釣針が背中に、釣竿が桟橋に引っかかっていたために、身動きが取れなかっただけのことだったのである。
原因を知った金太は、釣針を抜いて安心した。
「お 痛ぇ、毛鉤(けばり)」
この時の金太の言葉が「置いてけ堀」の語源になったと、あるウソツキが語っていたという。
[2013年9月末日執筆]
ゆかりの地の地図
参考文献はコチラ
※ 「置いてけ堀」は現在の錦糸堀公園近辺にあったとされています。
※ 埼玉県川越市にも「置いてけ堀」があるそうです。
※ 「置いてけ〜」と、呼び止めるのは、タヌキやムジナ説などもありますが、河童説が有力です。
※ ギバチがトゲで出す音を化け物と勘違いしたという説もあります。
※ 個人的には、やはりこの物語で書いたように、堀の魚を独り占めしたい人が流したうわさが元かと存じます。