2.阿静房安念

ホーム>バックナンバー2013>2.阿静房安念(あせいぼうあんねん)

北朝鮮の挑発
1.信濃前司行長
2.阿静房安念
3.泉 親衡
4.和田義盛

 建暦三年(1213)二月、下総御家人・千葉成胤(ちばなりたね)が関係者の一人を連れて幕府の大倉御所(おおくらごしょ。神奈川県鎌倉市)に参上した。
「阿静房安念
(あせいぼうあんねん)なる者を連れて参りました。信濃御家人・泉親衡(いずみちかひら。親平・小次郎)の郎党で、青栗七郎(あおぐりしちろう)の弟だそうです」
 理由も分からずいきなり縛られて連行された安念はおびえていた。
「いったいこれはどういうことでしょうか?」
 北条義時が言い放った。
「とぼけるな!お前は軍記物作りにかこつけて諜報活動を行っていたであろう!」
「え!? なんですって!? 私はただ、『平家物語』の取材で、その、その――」
「言い訳無用!お前は謀反を起こそうとした罪で斬首
(ざんしゅ)だ!」
「ザンシュ!何それ!? ヒャッ!首が飛ぶってことー!?」
 安念は泡を吹いて反論した。
「わっわっわっ私は、断じてそんなっ、謀反だなんて大それたことは考えたことはございませんっっっ!」
「お前は死ぬのが嫌いか?」
「当然です!」
「では、お前の好きなものとは何か?」
「酒と、女と、カネと、土地と、うまいものです」
「プッ!典型的な男だな」
「誰でもそうでしょう!」
「では、お前の好きなもの五つ、すべて褒美として与えよう」
「へ?」
「その代わり、お前が知っている仲間の氏名をすべて明かせ」
「……」
「なんだ?黙っていれば斬首だぞ」
「!」
「明かせば酒と女とカネと土地とうまいものはすべてお前のものだ。明かさなければ斬首だ」
「うわっ!そんな極端な!――では、私が仲間たちの名前を明かせば、仲間たちはどうなるので!?」
「罪があれば斬首だが、なければ何も罰することはない。お前も仲間たちも何も悪いことをしていないのであろう?」
「もちろんしていませんてっ」
「てあれば全員無罪だ。安心して全員の氏名を明かすがいい」
「……」
「迷うことはあるまい。仲間たちは全員無罪放免で、お前の場合はいい思いをするか斬首にされるかどちらかなのだ。お前は滅びたいのか、栄えたいのか、どっちだ?」
 安念は観念した。
「分かりました。すべて明かします〜」
 義時は笑った。
「よく決断した。詳しくは金窪と安東、この二人に話すがいい。褒美はそれからの話だ」
「ははーっ。ありがたき幸せ〜」

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