4.原因発覚 | ||||||||||||||
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二十年ほどが過ぎた。
千代の誕生年を白雉五年とすると、藤原京の時代、持統天皇の御世である。
千代はダンナαとの間に何人か子ができたが、彼女はまた鏡を見ることが多くなった。
自分の顔を見て、しみじみと考え込むことが多くなった。
(なんで?)
千代はわからなかった。
(あたしって、なんでこんなにいつまでも若いのかしらん?)
鏡の中の自分は、確かに自分の顔である。
しかし何年たっても、十五、六歳にしか見えないのである。
「母さん、どうしたの?鏡ばかり見てー」
ふと後ろからのぞいてきた息子のほうが年上に見えるくらいである。
ダンナαはといえば、もう頭に白いものが混じり、顔にもしわが刻まれ始めているのである。
(なんで?なんで?)
理由がわかったのは、高橋権太夫が不治の病に臥(ふ)せってからである。
「お父さま。しっかりして〜」
お見舞いに来た千代に、権太夫は弱気に言った。
「おれはもうだめだ。医者もサジを投げた」
「そんなことないよ〜」
権太夫はニヤリとした。
「そうだ。他の人であればそんなことあるのだが、おれの場合はそんなことないのだ。おれには若い頃に得た秘宝がある。おれはこの時のために、それを床下にずっとしまっておいたのだ」
「床下に……」
千代は嫌な予感がした。
「そうだ。人魚の肉だ。あれを食べた者は不老不死になれるのだ。つまり、不治の病なんて屁(へ)でもないってことさ〜」
(……!)
千代は愕然(がくぜん)とした。
(あれが人魚の肉……。不老不死になれる……。そうだったのね!だからあたしは、いつまでもこんなにぷにゅぷにゅ――)。
「千代。人魚の肉はその下にある。取り出しておれに食べさせてくれ」
「……」
「千代。どうした?」
「……。その肉って、ぷにゅぷにゅしてる?」
「は――?ああ、そんな感じだ。今は干からびているだろうが」
「白くて、透き通ってる?」
「ああ。そうだ。今は変色しているだろうが――。何!?なぜそれを知っているのだ?見たのか!?」
千代は権太夫の顔を見つめた。
二十年も変わらない、十五、六歳にしか見えない、透き通るような白さの幼な顔で――。
権太夫はハッとした。
「まさか……、おまえ……」
いまさらながら、ついにそのことに気づいた。
「た、たっ、食べちまったのかー!?」
千代はこっくりうなずいた。
「全部かー!?」
千代はまたこっくりうなずいた。
権太夫は笑っちまった。
「ハハハ……。ということは、おれは死ぬってことだな……。普通の人と同じように……。なんてこったぁー!」
権太夫は嘆いた。
でも、すぐに開き直った。負け惜しみをほざいた。
「まあいい。死ぬということは、またいつかのあの美女に逢えるということだ。フッ、それも悪くはない」
数日後、権太夫は死んだ。