3.全裸の不審者 | ||||||||||||||
ホーム>バックナンバー2023>令和五年1月号(通算255号)卯年味 いなばのしろうさぎ3.全裸の不審者
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ウサギは惨めだった。
「ヤハ」
全裸の体に潮風が冷たかった。
「ルルルルル〜」
傷口にしみて泣けてきた。
「ウララララァ〜」
そこへちょうど、たくさんの兄たちが通りかかった。
たくさんの兄たちはウサギの存在に気がついた。
「おい。素っ裸の男が浜で倒れているぞ」
「病人か?」
「いや、病人なら、全裸はおかしい」
「変態か?」
「そうだ。それだよ! それに違いない! 関わるなよ。ここは見てないふりして通り過ぎよう」
たくさんの兄たちは無視して通り過ぎようとしたが、ウサギの方から近寄ってきた。
「お願いです! 何か、着るものをください!」
それでも、たくさんの兄たちは歩き続けた。
「全裸なのは何が理由があるんじゃないか?」
「追いはぎにでもあったとか」
「そうだ。それだよ! それに違いない!」
「待て待て。まだ変態の線も捨てきれない」
「触らぬ神にたたりナシだ。放っておこう」
「どっちなんだ?」
「害者なら助けなきゃならないが、変態なら関わっちゃいけない」
「心がふたつある〜」
ウサギはたくさんの兄たちの一人に取りすがった。
「何か着るものを! こんな姿じゃ、どこにも行けないんです! お願いです! ちっちゃい布切れ一枚でいいんです! アソコさえ隠せればそれでいいんです! 何でもいいから何か布切れを〜」
取りすがられた兄は転倒してしまった。
「痛いなあ!」
取りすがられた兄は怒った。
「おしおきしてやる!」
ウサギを縛り上げると、海水をぶっかけ、もっと日のよく当たる風の強い浜辺に運んで放置してやった。