4.優しい好青年 | ||||||||||||||
ホーム>バックナンバー2023>令和五年1月号(通算255号)卯年味 いなばのしろうさぎ4.優しい好青年
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てかてか、てかてか。
日が高くなってきた。
じりじり、じりじり。
日差しがきつく、風も強くなってきた。
ヒリヒリ!ヒリヒリ!
傷口の塩が強烈にしみてきた。
「痛いよー! 熱いよー!」
ウサギは泣いた。
「ひーん! ひどい奴らのせいで、ますます具合が悪くなったぜ〜」
ウサギはもがいた。
「誰か助けて〜」
ウサギは叫んだ。
「なんとかなれーッ!」
そこへ大きな袋を担いだ青年がやって来た。
たくさんの兄たちから遅れてついてきたオオクニヌシである。
オオクニヌシは全裸で縛られていたウサギに気づいた。
「どうしたんですか?」
ウサギが理由を話すと、
「それはかわいそうに」
オオクニヌシは縄をほどいてくれた。
真水で体も洗ってくれた。
ガマの粉で傷の治療もしてくれた。
衣服も着せてくれた。
「ありがとうございます〜」
ウサギは涙を流して礼を言った。
「――ところで、どこへ行かれるのですか?」
「イナバへ行きます。兄たちがイナバにいるお姫さまに求婚しに行くので、私が荷物運びでついてきたんですよ」
ウサギは知っていた。
「お姫さまとはヤガミヒメさま(「二股味」参照)のことですね。ふふん。あなたの兄たちは誰も結婚できませんよっ」
「ふうん。そんなに守りの固いお姫さまなんですか?」
「いいえ、あなたなら結婚できますよっ」
「え、私が!? まさか〜。優秀な兄たちを差し置いて、トロい私なんかが、ありえませんよ〜」
「ありえないことはありません。ぼくが女だとしたら、あんなヤツラなんか全員振って、あなたと結婚しますよっ」
オオクニヌシは信じられなかった。