5.カップル成立 | ||||||||||||||
ホーム>バックナンバー2023>令和五年1月号(通算255号)卯年味 いなばのしろうさぎ5.カップル成立
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たくさんの兄たちがイナバに着いた。
ヤガミヒメの邸宅を訪ねると、口々に彼女に求婚した。
「好きです!」
「ちゅきちゅき!」
「俺と結婚してください!」
「俺とも結婚してください!」
「先に俺とだな!」
「いーや、俺が先に結婚するのっ!」
「話が違うぞ!俺が先に結婚するのっ!」
「俺って言ってるだろうがー!」
「待て待て、ケンカするな。全員で結婚することは決まっているんだ」
「そうだよ。この娘はみんなの嫁なんだ。みんな仲良くしようぜ」
「全員で一緒に結婚式をあげればすむことじゃないか」
「でも、その後のことはみんな一緒にはできないぞ」
「その後のことって何?」
「チョメチョメに決まっているじゃないか」
「きゃー! 恥ずかしー!」
「恥ずかしいヤツは後だな」
「いいや、恥ずかしくない! 俺が先!」
「ダメダメ。俺だけの嫁!」
「抜け駆けは反則だぞ!」
「チョメチョメもかわりばんこ」
「かわりばんこにも順番がある」
「どのみち、俺が先だ」
「俺だ俺だ」
「やんのか?」
「望むところだ!」
「ボコボコにしてやるぜ!」
「逃げるんなら今のうちだぞ!」
「それはこっちのセリフだ!」
ケンカを始めたたくさんの兄たちに、ヤガミヒメが言い放った。
「あなた達! 勝手にそっちでケンカしてるだけで、あたしの気持ちを何にも聞いてないじゃない!」
たくさんの兄たちが声をそろえて答えた。
「俺は君が好きなんです! 俺と結婚してください!×80」
「だから、あなたたちのうち誰が私と結婚したいのよっ!?」
「ここにいる全員が結婚したいんだよっ!×80」
「私一人に!?」
「そうだよっ!×80」
「八十人の男が私一人と結婚!?」
「だよっ×80!」
「バッカじゃねーの!?」
「え?×80」
「ひー、こわいこわい〜!」
「!×80」
「イヤッイヤイヤ! ヤダーッ! 私はダンナは一人しかいらないのっ!」
「!!×80」
「帰って!」
「……×80」
「八十人と結婚なんて、お断りします! とっととみんな帰ってよっ!」
「……×80」
そこへ遅れてオオクニヌシがやって来た。
彼は勇気を出してヤガミヒメに告白した。
「お姫さま。私と結婚してください!」
ヤガミヒメが聞いた。
「あなたは一人なの?」
「一人です」
「結婚はあなただけとすればいいの?」
「もちろんです!」
「あなたのお名前は?」
「オオクニヌシっす!」
「あたしはヤガミヒメ」
「ですか」
「ヤガミヒメはオオクニヌシさんと結婚します!」
オオクニヌシは歓喜昇天した。
「あはっ、あはっ、こんなになっちゃったー!」
(「残酷味」へつづく)
[2022年12月末日執筆]
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参考文献はコチラ
※ 言葉をしゃべれるのは原則として人間だけですので、現実的解釈としてウサギもワニ(サメ)も人間としました。
※ ウサギの正体は月読尊(つきよみのみこと・つくよみのみこと)ともいわれています。
※ この説話は和珥氏(地祇族)と宇佐氏(天神族)の争いが元になっている可能性があります。
※ 鳥取県八頭町にも白兎神社がありますが、こちらの白兎神は天照大神の道案内をしたと伝えられています。
※ 鳥取市には八上比売を祭る売沼神社もあります。