2.宝の山を発見する方法

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裏金
1.流れ芸人の子
2.宝の山を発見する方法
3.再就職と出世
4.本多正信の壁
5.そして飽くなき欲望

 信之丞と藤十郎は、土屋直村から土屋姓を与えられた。
 いちおうサムライになり、毎日メシが食えるようになった。
「うまい、うまい」
 藤十郎は、飯粒をかみしめて幸せを感じた。
 でも、二人の野望はあくまで大金持ちであり、こんな生活で満足してしまうわけにはいかない。
 それには日々鍛錬し、手柄を立ててもっと上を目指さなければならないのであるが、藤十郎は同僚や上司たちを見て自信をなくした。
「みんなすごいよ。剣は強いし、足は速いし、乗馬も上手だし。ボクにはあんなこと、とてもマネできないよ。兄さんはいいよ。強いから。ボクは弱いし、戦争も怖いから、これ以上の金持ちにはなれないんだ」
 藤十郎はいじけた。
 信之丞が勧めた。
「お前、山師
(やまし。鉱山経営者)になれ」
「山師?」
「そうだ。金や銀の鉉
(つる。鉱脈)を見つけて山師になれば、たちまち大金持ちだぞ」
「でも、鉉なんてどこにあるんだよ? めったに発見されないから、金や銀は高価なんだろう」
 信之丞は周りに誰もいないことを確かめると、小声で言った。
「昔、父の知り合いの山師に聞いたことがある。『金の埋まっている山には金光が花の咲くように立ち上り、銀の埋まっている山には銀光が竜の飛ぶのように立ち上る』そうだ。これが金銀山を発見する秘伝中の秘伝だってさ」

 この秘伝は、江戸時代の鉱山技術書『山相秘録(さんそうひろく。佐藤信淵編)』にも書かれていることである。この書物にはもっと詳しいことも書いてあるので、埋蔵金を探している方、一攫千金をたくらんでいる方、借金まみれの方、その他とにかくカネが必要な方などは、ぜひ読んで参考にされたし。

「そんなバカな!」
 藤十郎はいったんは笑い飛ばしたものの、信之丞のマジな顔を見て考え直した。
「いや。ボクは信じるよ。大金持ちになれる可能性のあるものは、何だって信じるよ」

 藤十郎は金山衆(かなやましゅう。武田家のハイテク技術者集団)に入った。
 山師・田辺十郎左衛門
(たなべじゅうろうざえもん)のもとで鉱山技術を学び、黒川金山(くろかわきんざん。山梨県塩山市)の経営に参加、目を皿にして金光銀光を探し回り、次から次へと鉉を発見していった。

 人々は驚いた。分け前をもらって喜び、口々にほめたたえた。
「藤十郎殿はすごい!」
「天才だ!」
「奇跡の山師だ!」
 こうして信之丞・藤十郎兄弟は次第に裕福になっていった。
 藤十郎は思った。
「お館様はお強い。これからもどんどん領地を広げていくだろう。そうすれば、もっとたくさんの金銀山を掘れるようになるんだ」

 信玄は藤十郎の期待を裏切らなかった。
 初め甲斐一国だけの領主だった信玄は、信濃の小笠原長時
(おがさわらながとき)ら、駿河の今川氏真(いまがわうじざね)を追い(「制裁味」参照)、元亀三年(1572)に遠江三方原(みかたがはら。静岡県浜松市)にて織田・徳川連合軍を粉砕(三方原の戦。「惨敗味」参照)遠江三河美濃飛騨越中上野の一部にまたがる大領地を占有したのである。
 藤十郎は期待した。
「お館様は天下を取るかもしれない……」

 が、翌天正元年(1573)四月、信玄は病死してしまった(「大雪味」参照)
 後を継いだその子・勝頼も領土拡張に努め、武田家史上最大の版図を築き上げたものの
(「人質味」参照)、天正三年(1575)五月、三河設楽原(したらがはら。愛知県新城市)で織田・徳川連合軍と交戦、完膚なきまでの歴史的大敗北を喫してしまった(長篠の戦。「銃器味」参照)

 この戦いで、信之丞は鉄砲で撃たれた。
「兄さん!」
 傷は重かった。助かりそうになかった。
「オレはもうだめだ……」
 信之丞も分かっていた。
 藤十郎は泣きそうになった。
「だめだ、兄さん! ボクたちはまだ、大金持ちになってないじゃないか! まだ、小金持ちだよっ!」
 信之丞は笑った。藤十郎に諭した。
「お前は大金持ちになるんだ。お前なら、なれる。おれの分まで金を貯めまくって、超金持ちになるんだ……」
「兄さん……」
 信之丞は死んだ。藤十郎はワァワァ泣いた。そして誓った。
「ボクはなるよ! この世の中で今まで誰もなったことがないくらい、超金持ちになってやるんだっ!」

 天正十年(1582)三月、織田・徳川連合軍は甲斐へ侵攻、勝頼は自殺し、武田家は滅亡してしまった(「ニセ味」参照)
 藤十郎は逃げた。大金を持って逃亡した。
「兄さん、超金持ちになるどころか、失業しちゃったよ……」
 笑うしかなかった。
 でも、万が一のときのため、大金は山に埋めて隠しておいた。

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