3.きけわだつみのこえ

ホーム>バックナンバー2011>3.きけわだつみのこえ

★ 東日本大震災
1.とりかえばや物語
2.老人と海
3.きけわだつみのこえ
4.兄弟仁義
5.こんにちは赤ちゃん

 山幸彦は目を覚ましました。
「あれ?僕は海に落とされたんじゃあ?」
 起き上がると、立派な御殿が建っていました。
「ここはどこだ?」
 表札には「海神・豊玉彦
(とよたまひこ)のおうち」と書いてあります。
「ああ、これがさっきのじいさんの知り合いとかいう海神の家だな」
 そのとき、中から内気そうな侍女が出てきました。
 山幸彦はとっさに井戸のそばにあった桂の木の陰に隠れましたが、侍女は井戸のほうに来るようです。玉
(ぎょく)の器を持っているところを見ると、水を汲みに来たのでしょう。
「あ!」
 侍女は山幸彦を見つけてしまいました。
「水をくれ」
 山幸彦はとっさにウソをつきました。
 侍女が器に水を入れて差し出すと、山幸彦は身に付けていた勾玉
(まがたま)を解いてその中に入れました。
「この家の主人にお願いがあるから、取り次いでほしい」
「はあ?」
 侍女がわけがわからないでいると、奥から豊玉彦の娘の豊玉姫
(とよたまひめ)が出てきました。
「誰かいるの?」
 そして、りりしい山幸彦と目が合って、
「まあ」
 と、赤くなりました。

 豊玉姫は豊玉彦に報告しました。
「家の前に立派な男の人
がいます」
 豊玉彦は笑いました。
「人は見かけで判断するものではない」
「でも、こんなの持ってましたけど」
 豊玉姫は侍女から取り上げた勾玉を見せました。
「ほう」
 豊玉彦は、勾玉を手に取って目を見張りました。
「こっ、こっ、これは!天神族の王子のものだ!」
「テンジンゾク?」
「ああ。まだいらっしゃるのか?すぐ中に入れておもてなししなさい!」
「はい」

 山幸彦は御殿の中に通されました。
 アシカの皮八枚と絹の敷物八枚を敷いた豪華な座所に案内され、山海の珍味を網羅した御馳走を並べられて、手厚くもてなされました。
 山幸彦は釣針のことを聞こうとしました。
「実はお願いがあってきたんですが」
「へへえー!」
 豊玉彦は平伏しました。勝手に解釈しました。
「分かっております!分かっております!私が差し出せるものは、あと一つしかございません。どうぞ娘を!どぞどぞ!」
「え!そういうことでは……」
 山幸彦はたじろぎましたが、豊玉彦は聞いていませんでした。
 彼はボーッと妄想にふけっていた豊玉姫にささやいてけしかけました。
「娘よ。将来これ以上の玉の輿
(こし)はない。相手の気が変わらぬうちに行けっ!行くのだっ!」
「はい!お父さま!」
 豊玉姫もソノ気でした。
 彼女は玉の輿目指して腰のタマに飛びかっていきました。
「いっただっきまーす!」
「あれー!ちがうんだー!」

 めでたしめでたし。

歴史チップス ホームページ

inserted by FC2 system