3.きけわだつみのこえ | ||||||||||||||
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山幸彦は目を覚ましました。
「あれ?僕は海に落とされたんじゃあ?」
起き上がると、立派な御殿が建っていました。
「ここはどこだ?」
表札には「海神・豊玉彦(とよたまひこ)のおうち」と書いてあります。
「ああ、これがさっきのじいさんの知り合いとかいう海神の家だな」
そのとき、中から内気そうな侍女が出てきました。
山幸彦はとっさに井戸のそばにあった桂の木の陰に隠れましたが、侍女は井戸のほうに来るようです。玉(ぎょく)の器を持っているところを見ると、水を汲みに来たのでしょう。
「あ!」
侍女は山幸彦を見つけてしまいました。
「水をくれ」
山幸彦はとっさにウソをつきました。
侍女が器に水を入れて差し出すと、山幸彦は身に付けていた勾玉(まがたま)を解いてその中に入れました。
「この家の主人にお願いがあるから、取り次いでほしい」
「はあ?」
侍女がわけがわからないでいると、奥から豊玉彦の娘の豊玉姫(とよたまひめ)が出てきました。
「誰かいるの?」
そして、りりしい山幸彦と目が合って、
「まあ」
と、赤くなりました。
豊玉姫は豊玉彦に報告しました。
「家の前に立派な男の人がいます」
豊玉彦は笑いました。
「人は見かけで判断するものではない」
「でも、こんなの持ってましたけど」
豊玉姫は侍女から取り上げた勾玉を見せました。
「ほう」
豊玉彦は、勾玉を手に取って目を見張りました。
「こっ、こっ、これは!天神族の王子のものだ!」
「テンジンゾク?」
「ああ。まだいらっしゃるのか?すぐ中に入れておもてなししなさい!」
「はい」
山幸彦は御殿の中に通されました。
アシカの皮八枚と絹の敷物八枚を敷いた豪華な座所に案内され、山海の珍味を網羅した御馳走を並べられて、手厚くもてなされました。
山幸彦は釣針のことを聞こうとしました。
「実はお願いがあってきたんですが」
「へへえー!」
豊玉彦は平伏しました。勝手に解釈しました。
「分かっております!分かっております!私が差し出せるものは、あと一つしかございません。どうぞ娘を!どぞどぞ!」
「え!そういうことでは……」
山幸彦はたじろぎましたが、豊玉彦は聞いていませんでした。
彼はボーッと妄想にふけっていた豊玉姫にささやいてけしかけました。
「娘よ。将来これ以上の玉の輿(こし)はない。相手の気が変わらぬうちに行けっ!行くのだっ!」
「はい!お父さま!」
豊玉姫もソノ気でした。
彼女は玉の輿目指して腰のタマに飛びかっていきました。
「いっただっきまーす!」
「あれー!ちがうんだー!」
めでたしめでたし。