2.さよなら | ||||||||||||||
ホーム>バックナンバー2022>令和四年12月号(通算254号)油断味 赤穴瀬戸山城の戦2.さよなら
|
大内軍は赤穴瀬戸山城に攻め寄せたものの、山城+水城という未曾有の要害の攻略には手間取るしかなかった。
「いったいどう攻めればいいんだ? 敵は少数だ。うまく敵をおびき出せれば討ち取れるのだが」
寄手の一人、熊谷信直が悩んでいると、その弟の熊谷直続か提案した。
「拙者にお任せください。敵を混乱させておびき出させてみせましょう」
直続は二百余騎を率いて城下町に放火して回った。
ぼわ!
ぼわっ!
めらめらめららっ!
「へっへっへ、もっとやれ、もっとやれー!」
「やめろー!」
案の定、城から兵が打って出てきた。
家来の荒川与三が報告した。
「敵がおびき出てきました!」
「よし、応戦せよ!」
「敵の数は約千人!」
「あれ? こっちより大分多いな」
「退散しますか?」
「待て。出てきたのは誰だ?」
「赤穴右京亮光清と田中三郎左衛門」
「何! 総大将自ら打って出てきただとっ! よし、大手柄の前に退却はない!
俺に続けっ!」
「ははっ!」
しかし、多勢に無勢であった。
ひゅん!
ひゅん!
ひゅひゅん!
光清と田中は、押し寄せる熊谷勢に矢の雨を降らせ続けた。
「敵は小勢じゃ! 取り囲んで討ち取れ!」
「ヤツは平安の昔、平敦盛を討ち取って名を馳せた武将・熊谷直実の子孫だぞ! 討ち取って手柄とせよっ!(「猛暑味」参照)」
「はいなー!」
ぴゅん!
ぴゅん!
ぴゅぴゅん!
ぴゅーりたんかくめー!
熊谷勢は次々と倒れたり、逃げ出したりしていった。
そしていつの間にか、直続と荒川の二人だけになっていた。
「もう、終わりだね〜」
「さよなら、さよなら、さよなら〜ぁぁ」
直続と荒川は刺し違えて死んだ。
直続の享年は三十三。