6.翔んだカップル | ||||||||||||||
ホーム>バックナンバー2023>令和五年2月号(通算256号)残酷味 八十神の逆恨み6.翔んだカップル
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性交後、スセリビメは乱れた髪を手で直しながら父に報告した。
「スゲーカッケー男の人が来ました」
スサノオがオオクニヌシの顔を見て笑った。
「どこがカッケーんだ。ブサイクじゃないか。俺のほうがよっぽどカッケー」
「はじめまして、おとうさん」
「おとうさん!?」
スサノオはイラッとした。
「赤の他人から『おとうさん』なんて呼ばれる筋合いはなーい!」
「実はもう赤の他人じゃないんですよ〜、おとうさん」
「あたしたち結婚しました」
「結婚なんて認めねーぞ!」
「でも、もうやっちゃったし〜」
「さっき表で済ませたんですけど、あの声、聞こえませんでした?」
らぶらぶきゅんきゅん〜。
「なんだと! こ、こいつら、もうやっちまっただとぉー!!」
スサノオは怒り狂った。
「コノヤロー! ブサイクのくせにいい根性してるじゃねーか!」
スサノオはオオクニヌシをふん捕まえると、ヘビがたくさんいる牢屋(ろうや)に閉じ込めてしまった。
「てめーなんか、ヘビにかまれて死んじまえー!」
「ひー、ヘビこわいよー!」
スセリビメが後で内緒で牢屋に入ってオオクニヌシに領巾(ひれ)を着せてあげた。
「これはヘビよけの領巾です。ヘビが寄ってきたら、ひらひらをパタパタすると逃げていきます」
おかげでオオクニヌシはヘビにかまれずにすんだ。
翌朝、スサノオが牢屋をのぞいてガッカリした。
「なんだ、ブサイク。まだ生きているのか?」
「おかげさまで〜」
「それなら今度はこっちだ」
スサノオはオオクニヌシをムカデやハチがたくさんいる牢屋に閉じ込めた。
「虫はやめてー! きもいきもい〜!」
「うるせえ!」
またスセリビメが後で内緒で牢屋に入って防虫の領巾を着せてくれたため、オオクニヌシは安心して眠ることができた。
また翌朝、スサノオは牢屋をのぞいてガッカリした。
「何だ。平然としているじゃないか」
「おかげさまで〜」
「そんならこれならどうだ」
ピュウ!
スサノオは広い野原に向けて鏑矢(かぶらや)を放つと、
「あれを取ってこい!」
と、オオクニヌシに命じた。
で、オオクニヌシが野原に入ったとたん、
ぼわっ! ぼわっ!
周囲に放火してしまった。
すぶすぶ。すぶすぶ。
火は瞬く間に燃え広がった。
スサノオは狂笑した。
「ハハハ! もう出られまい!貴様はここで焼け死ぬのだ!」
オオクニヌシは困った。
すぶすぶ!すぶすぶ!
「ダメだ、完全に火に囲まれちゃった。私の人生、もう終わりだ〜」
しゃがみ込んでしまったオオクニヌシの前にネズミが現れて教えてあげた。
「内はほらほら。外はすぶすぶ」
人の言葉をしゃべったということは、このネズミは人間のネズミなのであろう。先月号で登場したウサギの可能性が高い(「卯年味」参照)。
「内はほらほら。外はすぶすぶ……」
オオクニヌシは地下の洞穴に気づいた。
「そうか! 火が消えるまでここで隠れていればいいんだ!」
彼は洞穴に入ってやり過ごすことにした。
「ブサイクを焼き殺したった!」
そうとは知らないスセリビメは、父の報告を受けて葬式の準備をしながら泣き出した。
「死んじまったものは仕方ない。しょせんは俺の試練に耐えられない、か弱いブサイク男だったんだ。遺体を取りに行くぞ」
「えーん、えーん」
スサノオはスセリビメを連れて火の消えた野原に向かった。
が、野原にオオクニヌシの遺体はなかった。
代わりに生きたオオクニヌシが鏑矢を手に持って立っていた。
「おとうさん、矢を取ってきました」
スセリビメが飛びついて泣いた。
「えーん! 死んじゃったかと思った〜」
オオクニヌシが優しく抱き寄せて言った。
「死ぬわけないじゃないか。こんなかわいい妻を捨てて」
「えーんえーん」
スサノオはムカついた。
イライラしたせいか、頭がかゆくなってきた。
帰宅したスサノオがオオクニヌシに命じた。
「おいブサイク。俺の頭のシラミを取れ」
「はい、おとうさん」
スサノオは柱にもたれてオオクニヌシにシラミを取らせた。
スサノオの頭にはシラミじゃない虫もいたが、それらも取り除いてあげた。
「満足満足。ZZZ……」
スサノオはかゆみが収まって気持ちよくなったためか、眠ってしまった。
スセリビメが言った。
「今のうちに逃げましょう。ここに居続ければ、いつかあなたは父に殺されてしまいます」
オオクニヌシは渋った。
「ここを逃げてもたくさんの兄たちに殺されちゃうよ」
「大軍で武装すれば八十神には襲われません。父の兵は八千人います。これらを奪ってしまえば、父も八十神もあなたにはかないません」
「それだったら、ここから逃げる必要もないじゃないか」
「ですよね〜」
「おとうさんも初めより少し丸くなったようだし」
「ねー」
オオクニヌシは眠っているスサノオの髪を柱に結びつけて動けなくした。
その後でスセリビメが八千人の兵を集めてオオクニヌシを紹介した。
「父は捕らえました! 乱暴すぎる父はこの国の王を引退します。今からこの国のオオクニヌシはあたしの夫です!」
「ははーっ」
八千人の兵たちは平伏するしかなかった。
乱暴者のスサノオに辟易(へきえき)していた兵も多かったのである。
クーデターはあっさりと成功した。
目覚めたスサノオも、後付で王の交代を認めざるを得なかった。
八十神は根の国にも追ってきたが、八千人の兵たちによって返り討ちにされた。
こうして葦原中つ国では、オオクニヌシに反抗する勢力はいなくなったのである。
(「二股味」へつづく)
[2023年1月末日執筆]
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