1.一家心中寸前の家族

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善政とは何か?
1.一家心中寸前の家族
2.売り飛ばされる家族
3.追い詰められる家族

 大変なことになりました。
 もう一家心中しか手はありません。
 子供たちが泣いています。
「おなかすいた〜」
「なんかくわせろ〜」
 妻も泣いています。
「あっちに行けば、腹いっぱい食べられるよ」
「あっちって、どこ〜?」
「いいところよ〜。ごはんもたくさんあるし、お魚もいっぱい泳いでいるんだよー」
「わーいわーい!はやくいこー!」
 老母も泣き出しました。
「いたわしや〜」
 かわいそうですが、もうだめなんです。限界を超えているんです。このままでは木の皮や草の根など食べられるものは尽き、飢え死にするしかないのです。
「私たちは家族だ。バラバラに死ぬよりも一緒に死のう」
 というわけで一家心中することにしたのでした。

 隣家は違う選択をするようです。
「おれたちは死にたくねえー!」
 明日にでも夜逃げするようです。
 頭数の少ない家はそのほうがいいかもしれませんが、うちのような大家族には無理なんです。

 私は家族分の縄を先端を輪にして天井からぶら下げました。
 落ちないか、何度も引っぱって確かめました。
「準備はできたよ」
 私は小さい子から順番にあの世へ送り出すことにしました。
 一番小さい坊やを抱くと、坊やは泣き出しました。
 妻がたまらず坊やを取り上げました。
 妻は坊やをあやしながら懇願しました。
「ねえ、あしたにしよう〜」
 私もそうすることにしました。
 でも、命はちょっとだけ先送りできても、借金の返済日は変えられません。
 明日はとうとう怖い怖い「借米取り」がやって来る日なのです。

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