3.追い詰められる家族 | ||||||||||||||
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北条泰時 PROFILE | |
【生没年】 | 1183-1242 |
【別 名】 | 金剛・北条頼時・観阿 |
【出 身】 | 鎌倉(神奈川県鎌倉市) |
【本 拠】 | 鎌倉幕府(大蔵→宇都宮辻)(鎌倉市) |
【職 業】 | 武将 |
【役 職】 | 侍所別当→六波羅探題北方 →執権(1224-1242) ・修理亮・武蔵守・左京権大夫 |
【位 階】 | 従五位下→正四位下 |
【 父 】 | 北条義時 |
【 母 】 | 阿波局(義時の妹?) |
【 妻 】 | 三浦義村女・安保実員女 |
【 子 】 | 北条時氏・時実・公義・足利義氏室 ・三浦泰村室・北条朝直室 |
【 孫 】 | 北条経時・時頼ら |
【伯父母】 | 北条宗時・政子・時房ら |
【兄 弟】 | 北条(名越)朝時・重時・政村・時範・尚村・有時 ・実泰・時尚・女(藤原実雅→源通時室) ・女(大江親広→土御門定通室)・女(藤原実有室) ・女(中原季時室)・女(一条能基室)・女(足利貞氏室) |
【主 君】 | 源頼朝・頼家・実朝・藤原(九条)頼経 |
【部 下】 | 尾藤景綱・平盛綱・中原師員・三浦義村ら |
【友 人】 | 高弁・俊ジョウ(草冠に仍)・行勇ら |
【仇 敵】 | 後鳥羽上皇ら |
【墓 地】 | 常楽寺(鎌倉市) |
そこへ今まさに夜逃げしようとした隣家のダンナが血相変えて駆け込んできました。
「大変だ!借米取りが来たぞ!」
「なんだってー!」
私はびっくりして縄輪が手にからまって、知恵の輪みたいになってあたふたしました。
「しかも、御曹司様(時の執権北条義時の子・北条泰時)自ら来やがったー!」
「なんで?なんで?御曹司様が?」
妻も驚いていました。
隣家のダンナが教えてくれました。
「なんでも将軍様(源頼家。「清和源氏略系図」参照)の御勘気に触れ、身の危険を感じて故郷にお戻りらしいのだ」
「まずいな〜。そんなら御機嫌ナナメってことじゃないか〜」
非常に悪い事態です。
そこへ隣家の隣家のダンナも駆け込んで告げました。
「おい、全員集合だってよ」
「え?私もですか?」
「ああ。昨年借米の証文を書いた者全員だ」
妻が心配そうな顔をしました。
「あなた〜」
私は腹をくくりました。
「御曹司様がお呼びであれば、行かなければならない」
私は隣家のダンナや隣家の隣家のダンナたちとともに御曹司様のところへ向かいました。
御曹司様は数十騎の家来を従えて村の広場で待ち構えていました。
「これはこれは御曹司様」
「わざわざお遠いところをよーこそここへ――」
「あいさつは無用」
御曹司様が言葉をさえぎって馬上から聞きました。
「年貢と利息はどこにある?」
私たちはひざまずき額ずいて必死に謝りました。
「ももも、申し訳ございません〜」
「まさかまさかの二年連続大凶作によって、今年もまた年貢を納めることができません〜」
「どうか、お許しうおー!」
御曹司様は家来の一人から借米の証文を受け取ると、それを私たちに広げて見せました。
「これを書いたのは誰か?」
「私たちですぅ〜」
「ここには『来年は必ず返す』と書いてあるぞ」
「は、はい〜」
「ウソだったのか?」
「ウソをつくつもりは毛頭ございませんでしたが、結果的にそうなってしまいまして〜、重ねておわび申し上げまする〜」
御曹司様はしばらく証文を見ていましたが、ある点に気がつきました。
「これには『もし返せなかった場合は煮るなり焼くなり何なりとどうぞ』とあるが、まことか?」
「うう……。はい〜」
御曹司様は笑いました。
「やむをえまい。そういうことなら、そういうことにしてもらうぞ」
私たちは恐怖しました。
御曹司様は家来に命令しました。
「こいつらを全員ひっ捕らえよ!そして火をたけ!」
やっぱりでした。
約束を破った私たちは焼き殺されるのです!
「あなたー!」
「ととー!」
「いやだいやだー!」
妻や子供たちが家から飛び出して騒ぎ出しました。
御曹司様は鬼でした。
「うるさい!女も子供もひっ捕らえよっ!」
こうして妻も子供も瞬く間に捕らえられて縛られました。
ほかの家族たちも全員同様につかまってしばられてしまいました。
隣家のダンナは嘆きました。
「ああ、こんなことになるのなら、とっとと夜逃げしておけばよかった」
火は勢いを増しました。ゴウゴウうなりを立てて空を焦がし始めました。
御曹司様は満足でした。
「もういいだろう」
で、家来に命じました。
「やれ!」
ああ……。
とうとう私たちは焼き殺されてしまうのです。本当に悔しいですが、私も、隣家のダンナも、隣家の隣家のダンナも、その他大勢も、ともども真っ白な灰になっちまうのです……。
うう……。なんてことでしょうか……。私たちがいったい、何をしたっていうのでしょうか……。
御曹司様の家来は、次から次へとむんずとつかんで火の中に投げ入れました。
「そーれ!」
ぽい!
「そーれ!」
ぽい!
「そーれい!」
ぽいっ!
私たちは断末魔の叫び声を上げました。
「やめてくれー!」
「熱いのはいやー!」
「おれ、猫舌なんだーっ!」
が、投げ入れたのは私たちではありませんでした。
「あれ……?」
私たちはわけが分かりませんでした。
火の中で熱そうにクルクル舞っていたのは紙たちでした。
そうです。
それは借米の証文たちだったのです。
私たちはしばらくボーっとアホのように証文が焼けるの眺めていました。
御曹司様は言いました。
「これで証文はなくなった。つまり、お前たちの借米はチャラになったのだ」
「え……。ということは……?」
「もう返さなくていいのだ」
「え!?マジで!?」
「そうだ。来年も再来年もずっとだ」
「やったー!」
私たちは縄を解かれて喜びはしゃぎ跳び回りました。
御曹司様の家来たちは宴会の準備を始めました。
料理や酒が次々と私たちの前に運ばれてきました。
「おなかすいただろう?飢饉でろくなもん食っていないのだろう?」
私たちは信じられませんでした。
「え?いいの?ホントに食べてもいいの?」
「最後の晩餐(ばんさん)とか?」
「食べた後に後ろからブサリとか?」
御曹司様は否定しました。
「そんなことをするはずがない。お前たちは我が宝だ。いったい誰が自ら宝を捨てるような愚かなことをするであろうか?それに、宝というものは磨かなければ光らぬ。磨いて初めて本来の力を発揮するものだ。お前たちも腹が減っていては働くこともできぬ。安心してどんどん食って体力をつけるがいい」
「やったー!」
私たちは食いまくり飲みまくりでした。
全員に米一斗のお土産までもらえました。
私たちは感謝感激歓喜感涙しました。
「御曹司様って最高だー!」
「まさしく神っ!」
「どうか、御曹司様のお家が末代まで栄えますようにー!」
私たちは単純でした。
単純に、この人のためなら死ねるとまで思いました。
これ以降、私たちが御曹司様のために身を粉にして働いたことは言うまでもありません。
[2009年6月末日執筆]
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