1.シロアリの城

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藤原通宗 PROFILE
【生没年】 1040?-1084
【本 拠】 平安京(京都市)→能登国府(石川県七尾市)
→周防国府(山口県防府市)→若狭国府(福井県小浜市)
【職 業】 官人・歌人
【役 職】 右衛門佐→能登守→(但馬守)→周防守→若狭守
【位 階】 正四位下
【 父 】 藤原経平
【 母 】 高階成業女
【養 母】 藤原家業女
【 妻 】 藤原家経女ら
【 子 】 藤原家実・隆源・二条太皇太后宮大弐
【叔 父】 藤原顕家
【兄 弟】 藤原通俊ら
【主 君】 近衛天皇・後白河天皇・二条天皇
・六条天皇・高倉天皇・安徳天皇

 藤原通宗(ふじわらのみちむね)は藤原実頼(さねより)の来孫(らいそん。ひ孫の孫)である(「藤原北家系図」参照)
 実頼は摂関家当主として関白太政大臣摂政も務めたが、五世孫である通宗は、生まれながらの貴族ではなくなっていた。
 ために、壮年になって初めて地方長官に任ぜられた時には大はしゃぎであった。
能登!」
 任国の能登国府
(石川県七尾市)に赴いた通宗は、さっそく領内を馬で見て回った。
「オレの国だ!この国すべてがオレのものだ!」
 通宗は道を馬で駆けた。
「オレの道!」
 空を見上げた。
「オレの空!」
 山を見渡した。
「オレの山!」
 海に出た。
「オレの海!」
 海女が漁をしていた。
「オレの女!」
 声に気づいたのか、海女が振り向いてこちらを見た。
 圧倒的な老婆
(ろうば)であった。
 通宗は失敗に気がついた。
「前言撤回!」

現在の光浦(石川県輪島市)周辺

 老いた海女のほかに、若い海女もいるようであった。
 通宗は「オレの女!」かどうか確かめに近づいていった。
 顔を上げたその海女は、今度こそ「オレの女!」であった。
「何をしている?」
「魚を干してます」
 実に多種多彩な魚介類が、魚屋のように並べられていた。
「どれもうまそうだな」
 通宗が干物に手を伸ばしたところ、「オレの女!」な海女に、たたかれた。
「ダメ!あげませんよっ。全部税として納めるものですから」
「これ全部?」
「ええ。京へ送るそうです」
 通宗は不思議に思った。身分を隠して聞いた。
「オレは京から来た新参者の下っ端役人だが、こんなさまざまな魚介類が京に送られてくるという話は聞いたことがないな」
 オレの女!な海女は、フッと笑った。すべてを知っているような笑みであった。
「あなた、下っ端の役人さんなのに、まだ気づいてないんですか?」
「何に?」
国衙にたかっているシロアリたちに」
「シロアリ?」
「ええ。国衙にいるシロアリが食べつくしちゃうんで、税として京へ届く海産物はほとんどないそうですよ」
「そんなの不正じゃないか!そんな役人は訴えてやればいい!」
「どこに訴えるって言うんです?役人たちはみんなグルなんですよ」
「……」
「それに、もっと許せないことがあります」
「他にもあるのか?」
「海の向こうに『鬼の寝屋
(ねや)島』という離れ小島があります。ここ光浦(ひかりのうら。石川県輪島市)の漁師たち四、五十人は、毎年一回、その島までアワビを各一万個ずつ獲りに行かされているんです」
 鬼の寝屋島は、現在の七ツ島
(ななつじま。輪島市)である。本土からは二十キロほども離れている。
「『鬼の寝屋島』はアワビの産地です。行けばゴロゴロ転がっていますが、そこへ行って帰ってくるまでに荒海を越えて一昼夜もかかるんです。中には命を落とす人もいます。私の大事な人も、昨年、漁に行ったきり、帰ってきませんでした。ウウッ!」
 オレの女!な海女は顔を覆った。
 通宗は瞬間発火爆発した。
「許せない!そんな危険なことはもうヤメだ!もう今年からおまえたちは鬼の島なんかに行かなくてもいい!」
「だって、あなた下っ端なんでしょ?あなたの言うことなんか、誰も聞いてはくれないでしょうに」
「オレはだ!能登だ!この国で一番偉い人なんだっ!」
「え!そうだったの!?」
 オレの女!な海女はびっくりしてひざまずいた。
 そこらにいた漁師や海女たちも集まってきて平伏した。
 通宗がみなに叫んだ。
「この通り、オレが来ればみながひざまずく!国衙の役人たちも例外ではない!オレが能登に赴任してきたからには圧政はしない!不埒
(ふらち)なシロアリどもは、オレが残らず退治してくれよう!」
「信じていいんですねっ」
 オレの女!な海女は瞳をウルウルさせた。
「ああ!オレはおまえたち民の味方だ!」
 他の漁師も海女たちも目をキラキラさせて喜んだ。
「今度のさまは名君じゃ!」
「わしら長い間政治不信に陥っていたが、今度のさまは大丈夫のようだ」
「おらたちは期待するしかねえ!」
「ありがたやありがたや」
 通宗は民たちの前で高らかに公約した。
「オレが能登になったからには民第一の政治を行う!オレはやらないと言ったことはやらないが、やるといったことは必ずやってみせる!」

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