4.主張!跡部勝資!!

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1.密会!今川氏真!!
2.謀略!佐久間信盛!!
3.合流!徳川家康!!
4.主張!跡部勝資!!
5.奇襲!酒井忠次!!
6.粉砕!武田勝頼!!

 天正三年(1575)五月十五日、織田・徳川連合軍は岡崎城で動かず、十六日に牛久保(うしくぼ。牛窪。愛知県豊川市)、十七日に野田(のだ。豊川市)に進軍、十八日にようやく長篠城の西、設楽原(しだらがはら・したらがはら。新城市)西方に着陣した。
 織田・徳川連合軍は、徳川勢八千を加えて総勢三万八千
(三万ほか諸説あり)
 軍の配置は右のとおり。

● 長篠の戦織田・徳川軍陣容
守備地 主な武将
極楽寺山 織田信長・柴田勝家ら
天神山 織田信忠・河尻秀隆ら
御堂山 北畠(織田)信雄・稲葉一鉄ら
茶臼山 佐久間信盛・丹羽長秀
・滝川一益・池田恒興ら
連子川上 水野信元・羽柴(豊臣)秀吉
・森長可・安藤守就
・蒲生氏郷・不破光治ら
高松山 徳川家康ら
松尾山 松平信康ら
連子川下 大久保忠世・本多忠勝
・榊原康政・石川数正
・平岩親吉・鳥居元忠
・内藤家長・本多広孝ら

 また、織田信長は三千丁(千丁とも)鉄砲を効率よく撃つため、佐々成政(さっさなりまさ)前田利家・塙重友(ばんしげとも。後の原田直政)・福富平左衛門(ふくとみへいざえもん)・野々村三十郎(ののむらさんじゅうろう)鉄砲奉行に任命、連子川(連吾川)に沿って馬防柵を三重に張り、土塁も構築、空堀まで掘らせた。

 連合軍の動きは、逐一武田軍に報告されていた。
「大賀弥四郎の謀叛は事前に発覚して処刑されましたー!」
「織田・徳川連合軍、設楽原西方へ着陣! 陣地を構築し、長篠城救出の機会をうかがっておりますー!」
 十九日、武田勝頼は鳶ヶ巣山
(とびがすやま。鳶ノ巣山)から眼下の敵状を視察した後、本陣・医王寺山で軍議を開いた(「長篠城付近対陣図」参照)
 勝頼が諸将に地図を示して切り出した。
「この配置を見る限り、敵は我が軍が攻めてくるのを待ち構えていると思われる。よって向こうから攻めてくることはないと思うが、兵糧の問題もある。いずれ我が軍の採る道は、決戦か撤退しかないであろう」
「撤退でしょうな」
 老臣・馬場信房
(ばばのぶふさ。信春。信濃牧野島城主)が言うと、山県昌景(やまがたまさかげ。駿河江尻城代)・内藤昌豊(ないとうまさとよ。上野箕輪城代)・原昌胤(はらまさたね。陣場奉行)・小山田信茂(おやまだのぶしげ。甲斐谷村城主)ら歴戦の勇将らも賛同した。
「そもそも我々の出陣は大賀の謀反を後援するためのもの」
「そうじゃ。大賀が死んだということは、その意味がなくなったということじゃ」
「敵は約四万。我が軍は一万五千。正面から決戦を挑めば、我が軍の不利は明白」
「どう考えても撤退でしょうな」
 勝頼は笑い飛ばした。
「敵の大軍は目くらましだ! その実は農民や浮浪者をかき集めて鉄砲を持たせただけのゴミ軍団だ!」
鉄砲は農民や浮浪者でも使えまする。歴戦の猛将と互角に戦うことができまする」
 すると勝頼の近臣・跡部勝資
(あとべかつすけ)が口を挟んだ。
「馬場殿。この天候では鉄砲は使えませんよ」
 ここ数日、長篠では断続的に雨が降り続いていた。
「――それに、鉄砲を撃つには時間がかります。電光石火の我が軍の猛攻撃の前には踏み潰されるぐらいが関の山。その証拠に、いまだかつて我が軍は、織田や徳川に負けたことがありません。いいえ、新羅三郎義光
(しんらさぶろうよしみつ。源義光。武田氏祖)公以来、武田軍は敵を前にして逃亡したことすら一度たりともありません。先祖の栄光に泥を塗るべからず! ここはただ決戦あるのみっ!」
 勝頼も勇み立った。
「我が軍は勝つ! 前進すれば、必ず織田・徳川は瓦解する! これがその証拠だ!」
 で、例の佐久間信盛の偽の裏切り手紙を信房に見せたのである。
「こ、これは……」
 勝資は信房に主張した。
「織田は武田を恐れています。進軍が遅かったのはそのためです。決戦になれば、佐久間が信長本陣をつくでしょう。そうなれば、松平信康も父家康の首を持って我が軍に参陣するしかないのです」
「佐久間は信長の重臣。とても裏切るとは考えられぬ。それこそ我が軍をおびき寄せる策ではないか?」
 あくまで疑う信房に、勝資は言い張った。
「大賀の件を見なさい。現に敵は割れているんですよ! そうです。織田も徳川も武田を恐れ、スキあらば裏切ってやろうと迷っている連中が多々いるのです! これらの連中をなびかせるには設楽原で一大決戦を行い、格の違いを見せ付けてやることしかないんです! ――今ここで撤退して御覧なさい。長篠城の奥平
(おくだいら)勢が鳥居強右衛門の敵討ちとばかりに死に物狂いで打って出てくることでしょう! 設楽原の織田・徳川連合軍も堰(せき)を切ったように猛追撃してくることでしょう! いたずらに敵に背を向け、勝ち戦の流れを変えてはいけません! 守勢に回っては、勝てる戦も勝てなくなるんです!」
 信房は、目を閉じて考え込んでいた勝頼に向き直った。
「ならば敵の目的を消滅させることです。長篠城に総攻撃をかけ、がむしゃらにこれを陥落させることです。さすれば、設楽原の織田・徳川連合軍は目的を失い、撤退するしかなくなるでしょう!」
「力攻めは犠牲が多くなります! それならば設楽原で決戦を!」
「いいや、多少の犠牲を出しても、後方の憂いをなくしておくのが先決!」
「いいや、設楽原で決戦じゃ!」
「長篠城攻めじゃ!」
勝頼様!」
「城攻めか? 決戦か? どうか御決断を!」
 勝頼は決断した。
「両方だ」
「両方!?」
 仰天する諸将に勝頼に言い放った。
「心配することはない。食糧はまだある。まず、長篠城に総攻撃をかけて陥落させ、返す刀で織田・徳川連合軍を粉砕する!」

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