1.しわぶき禍

ホーム>バックナンバー2020>令和二年8月号(通算226号)祇園味 文室宮田麻呂の変1.しわぶき禍

祇園祭など中止
1.しわぶき禍
2.文室宮田麻呂の変

「親分〜」
「何だ?」
「おいらの給料は〜?」
「ないよ」
「ないってことないでしょ〜。給料もらわないと妻子を養えないじゃないですか〜」
「仕方ないじゃないか。この『しわぶき禍』だ。仕事がないんだよ。仕事がなければ収益もない。収益もないのに給料なんて出せるわけないじゃないか」
 しわぶきとは咳逆病
(がいぎゃくびょう)である。
 後世のインフルエンザとみられるが、コロナかもしれない。
「仕事がなければ九州に行って新羅
(朝鮮)と商売すればいいじゃないですか〜」
「ダメだ。外国との交易はお上によって禁止された。新羅人も入国できずに送還されたそうだ」
「どうして〜?」
「病気がうつるからだよ。どうやら『しわぶき』は新羅から来た疫病のようだ」
「何だよそれ〜。貿易商人が外国と商売できなくなったら終わりじゃないか〜」
「終わりだよ。だから君、明日から店に来なくていいよ」
「え?」
「クビってことだよ」
「!」
「今日ももう帰っていいよ。どうせやることないんだから。今まで御苦労さん。さいなら〜」
「ふざけんじゃねー! おいら、明日からどうすりゃいいんだよ!?」
「別の雇用先を探すことだね」
「このしわぶき禍で、雇ってもらえるとこなんてねーよっ!」
「だったらうちで無給でじっと我慢の子だ」
「そんなん生活できねーじゃねーか! 食いもんくれよっ! 銭くれよっ!」
「おおーっと、ひどいヤツだね。今まで雇ってあげた恩も忘れて居直り強盗かい? おまえなんかもう子分でもなんでもない。とっととどっか行きやがれ!」
「おお、出てってやるさ! お上にテメーの悪行を訴えてきてやるさっ!」
「あはは! お上がおまえのようなチンピラの話を聞いてくれるはずないじゃないか。ましてやこのしわぶき禍だ。外人と接触して病気がうつっちゃってるかもしれないヤツとは会ってもくれないだろうよ」
「それが、会ってくれるんだな」
「何だと?」
「アノコトを持ち出せば、喜んで会ってくれるんだな」
「アノコト? ま、まさか……」
「そうよ。そのまさかよ」
「!」
「この際、洗いざらい、全部お上にバラしてやるぜー!」
「や、やめなさい!」
「やめるもんか! じゃあな! あばよっ! 首を洗って待っていなっ!」
「やめろー! クソッ! 追えっ! 誰かヤツを捕まえろーっ!」

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