2.それでも神を信じている

ホーム>バックナンバー2019>令和元年12月号(通算218号)味 元和の京都の大殉教2.それでも神を信じている

フランシスコ教皇来日
1.御意向には歯向かえず
2.それでも神を信じている

 元和五年(1619)八月二十九日、この日までに逮捕されたキリシタン以下五十二名が、市中を引き回された後、火あぶりの刑に処せられることになった。

  橋本太兵衛如庵(寿安。ヨハネ)
  橋本テクラ … 如庵の妻。
  橋本カタリナ … 如庵の娘。
  橋本トマス …如庵の息子。
  橋本フランシスコ …如庵の息子。
  橋本ペトロ …如庵の息子。
  橋本ルイサ …如庵の娘。
  トマス喜庵
  池上トマス
  リノ利兵衛
  マリア … 利兵衛の妻。
  コスメ
  アントニオどみ
  小川ヨアキム
  ヨハネ久作
  マグダレナ … 久作の妻。
  レジナ …久作の娘。
  こしまトマスしんしろう
  マリア … しんしろうの妻。
  ガブリエル
  マリア
  モニカ … マリアの娘。
  マルタ
  ベネディクト … マルタの息子。
  マリア
  シクスト … マリアの息子。
  モニカ
  トマス藤右衛門
  ルチア … 藤右衛門の妻。
  ルフィナ
  マルタ … ルフィナの娘。
  モニカ
  インマヌエル小三郎
  トマス与右衛門
  かじやアンナ … トマス与右衛門の母。
  アガタ
  ちゅうぞうマリア
  ヒエロニモそうろく
  ルチア … そうろくの妻。
  桜井ヨハネ如庵。
  ウルスラ … 桜井の息子の妻。
  マンショ九次郎。
  ルイス又五郎(ルドビコ)
  レオきゅうすけ
  マルタ … きゅうすけの妻。
  メンシア
  ルチア … メンシアの娘。
  マグダレナ
  辻ディエゴ
  フランシスコ庄三郎
  フランシスコ
  マリア

 キリシタン一行は縄で縛られ、十一台の大八車に分乗されて市中を引き回された。
 野次馬や京雀たちが集まってきて騒いだ。
「なんだなんだ? 誰か有名人でも来たのか?」
「知らないの?キリシタンたちが公開処刑されるのよ」
「あれが本日殺されはるキリシタンたちか!」
「何あれ! 赤ちゃんもいる〜」
「子供多いな。かわいそうに」
「でも、みんな笑ってはる〜」
「気色わるぅ〜」
 役人が説明して叫んだ。
「みなさん! こいつらが御禁制のキリスト教を信じていた罪で本日火あぶりにされる連中です!」
 キリシタン一行も負けずに満面の笑顔で叫んだ。
「そうです! 私たちがキリシタンです!」
「天主さまを信じて死ぬのは全然怖くありません!」
「うれしいでーす!」

 キリシタン一行は六条河原にある旧刑場へ連行された。
 旧刑場というのは、関ヶ原の戦いで敗れた石田三成らの処刑以降閉鎖されていたためである
(または七条河原で行われたともいう)
 旧刑場には磔
(はりつけ)用に二十七の十字架が立てられた。
 人数と合わないが、家族はまとめて磔るのでいいのである。
 十字架の根元には、それぞれ薪
(たきぎ)が積み上げられた。
 それらはキリシタンたちの家を壊してこしらえたものなので、一石二鳥であった。
 通常の火あぶりは火から離してじわじわ苦しめたのであるが、今回は、
「せめて苦しめずに瞬時に処刑せよ」
 という勝重の命令により、すぐそばで焚
(た)くことにしたのである。

 キリシタン一行は旧刑場に着いてからもニコニコしていた。
 楽しそうに讃美歌も歌っていた。
「見ろ! あれが私たちが磔られる十字架だ」
「うれしい! 私たちは天主さまみたいに磔られて天に召されるのねっ」
「デウスさま、ありがとうございます!」
「ああっ! 早くデウスさまに逢いたい!」

 役人たちはキリシタン一行を十字架に磔始めた。
 夫婦は背中合わせにして磔、子があるものは妻のわきでまとめて縛ったという。
 しかし、橋本太兵衛は首謀者とされたため、独りだけで十字架に縛られた。
 その妻の橋本テクラと五人の子たちはまとめて縛ろうとしたが、
「六人はさすがに無理です」
 ということで、カタリナとペドロだけは隣の十字架に別に縛られた。

 役人たちは薪に火をつけ始めた。
 パチパチ!
 めらめら! ばうばう!
 各十字架は瞬く間に猛火と煙に包まれた。
 キリシタン一行は最期のお祈りを始めた。
「天主さま!」
「デウスさま!」
「いえすぅ〜!」
「まりあぁ〜!」
 親とは別に磔られていたカタリナが最期のクレームを言った。
「煙でお母さまが見えません!」
 テクラは叫んだ。
「祈るのです! 祈れば、すぐに天国で逢えるでしょう!」

 キリシタン一行の処刑はすぐに終わった。
 彼らの最期の讃美歌は、漆黒の夜空の中に消えていった。
 テクラは焼け死んだ後も、子たちを固く抱いていたという。

[2019年11月末日執筆]
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参考文献はコチラ

※ 橋本太兵衛の長男・ミゲルは不在だったため処刑されませんでした。彼も殉教を望みましたが、諭されて帰宅したそうです。
※ 処刑されたキリシタン一行の遺体は、潜伏キリシタンたちによってひそかに埋葬されました。
※ 京都の大殉教の犠牲者は、他の元和の大殉教の犠牲者たちとともに2008年にカトリック教会の福者に列せられました。
※ カトリックでの彼らの殉教日は、十月六日(太陽暦)とされています。

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