★ ワンアップした清原善澄 | ||||||||||||||
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中古三十六歌仙 |
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清原氏は『日本書紀』編纂で知られる舎人親王の末裔(まつえい)である(「清原氏系図」参照)。
そのためか、子孫には文人や学者が多い。
最も有名なのは、『枕草子』で知られる清少納言であろう。
他には『令義解』を編纂した清原夏野や、三十六歌仙に入っている清原深養父(ふかやぶ)・清原元輔(もとすけ)が知られている。
明経道(みょうぎょうどう。儒学)を家学とした広澄(ひろずみ)系清原氏や、後三年の役で討たれた出羽清原氏も同系とされるが、別系説もある。
清原広澄は、儒家・舟橋(ふなはし)家の祖である。
広澄には、善澄(よしずみ)という弟がいた。
元は海(あま)姓なので、清原家に養子に入ったのであろうか?
兄も学者であったが、弟も伝六十六代天皇・一条天皇の時代に大学寮で助教を務めたインテリであった。
しかし、気弱で争いが嫌いで出世欲もなかったため、貧乏で日々の生活にも事欠くほどであった。
寛弘七年(1010)七月、そんな善澄の自宅に強盗団が押し入ってきた。
ドドッ!ドドッ!ドドド!
「なに?なに?何が起こるの!?」
ただならぬ足音に気づいた善澄は、縁の下に隠れて息を殺した。
ドカドカ!ヅカヅカ!
すぐに強盗団が床上を歩く音が伝わってきた。
「なんだ?誰もいねえのか?」
声も聞こえてきた。
「好都合だ。金目の物を探せ!」
「へい、親分」
ガタガタ!ドカドカ!
バカン!ベッキー!ゲス!
色々な物をたたいたり壊したりする音も耳に入ってきた。
(こわいよー)
善澄はガタガタ震えた。
手を合わせて一心に祈っていた。
(早く帰ってくれー。調度は壊されても持ち去られてもいい!だが、大事な史料や経典には手を出さないでくれー!)
そのうちに、床上が静かになった。
(帰ってくれたか……)
そうではなかった。
「それにしても、何にもない家だな」
少休止しているだけであった。
「大学者の家って聞いていたが」
「てっきりお宝をため込んでいると思って来たんたが」
「チッ!俺んちより何もないじゃないか!」
ドカン!バキーン!ハライセデトビゲリー!
「お!」
ガラガラガラ。
「どうした?」
「物置みたいなところに唐櫃(からびつ)がいっぱい……」
「なんだって!」
どた!どた!どた!
「やった!これこそお宝だろう!全部引きずり出せ!」
ズリ!ズリ!カパッ!
善澄は頭を抱えた。
(まずい!開けられた〜)
心の中だけで叫んだ。
(それはお宝じゃない!それこそ史料や経典を詰めてあるんだ〜!私には大事なものだが、お前たちには何の価値もないものなんだよ〜!)
パッカン!パッカン!イヤンバカ〜ン!
唐櫃は全部開けられたようであった。
「なんだこれは!」
「紙くずばっかじゃねーか!」
「まるでお宝みたいに隠しておきやがって!」
「腹立つ!こうしてやるっ!」
ビリ!ビリー!ビリーバンバン!
善澄は頭をかきむしった。
(あ〜〜〜、破られたぁぁぁ〜〜)
「ひゃっはー!みんな紙吹雪だ!」
「せいせいしたぜ!」
「こんなところにいたって仕方がねえ!者共、とっととずらかるぞっ!」
強盗団は帰っていった。
「こわかったよ〜」
善澄が縁の下からはい出てきた。
そして、床上の惨状らを見て、涙が止まらなかった。
「ああっ!私が何十年も必死で集めた史料たちが〜、粉々だぁ〜」
善澄は紙くずの海に崩れて泣いた。
「バカどもめが」
怒りがふつふつとこみ上げてきた。
「大バカヤローどもめがっ」
彼はワンアップした。
スタンドアップした。
いつもの気弱な彼は、そこにはいなかった。
「許さぬ!絶対に許さん!私は悪は見逃さない!悪人は成敗されるべきだっ!」
善澄は勢いよく表に飛び出した。
門まで出て叫んだ。
「待てコラーッ!」
で、振り向いた強盗団に、こう言い放ってやった。
「テメーらのバカ面は記憶した!朝までに検非違使に言いつけて全員逮捕してもらうから覚悟しておけっ!」
強盗団は顔を見合わせた。
嫌な笑みを浮かべ合った。
かと思ったら、いっせいにこっちに走り戻ってきた。
「やばっ!」
善澄は家の中に逃げ込むと、また縁の下に隠れることにした。
ガン!
でも、柱に額をしたたかに打ちつけてうずくまってしまった。
「いたい〜」
痛がっている暇はなかった。
一刻も早く縁の下に潜り込まなければならなかった。
「何が痛いって?」
でも、遅かった。
強盗団に取り囲まれてしまっていた。
彼は泣きすがった。
「額が、額を板に打ち付けちゃって、痛いんですぅぅ〜」
強盗団はどっと笑った。
「そうかい。痛いのかい?」
強盗団の親分がみんなに呼びかけた。
「そんなら、みんなでもっと痛くしてやろうぜ!」
「賛成!」
「異議なし!」
ボコ!ボコ!ボキ!ボフッ!ボブディラ〜ン!
「あかんて〜、こんな最期、あかん〜〜〜」
善澄は殴り殺された。
享年六十八。
[2016年10月末日執筆]
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