★ ワンアップした清原善澄

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★ ワンアップした清原善澄
中古三十六歌仙
和泉式部・恵慶・能因・曽祢好忠
・藤原実方・平定文・大江嘉言・藤原道雅
・在原元方・藤原公任・藤原高遠・藤原義孝
・藤原道綱母・藤原定頼・兼覧王・文屋康秀
・菅原輔昭・安法・相模・赤染衛門
・伊勢大輔・道命・藤原道信・清原深養父
・源道済・増基・大江千里・大中臣輔親
・馬内侍・紫式部・藤原長能・上東門院中将
・在原棟梁・藤原忠房・大江匡衡・清少納言
→三十六歌仙(藤原公任選)

 清原氏は『日本書紀』編纂で知られる舎人親王の末裔(まつえい)である(「清原氏系図」参照)
 そのためか、子孫には文人や学者が多い。
 最も有名なのは、『枕草子』で知られる清少納言であろう。
 他には『令義解』を編纂した清原夏野や、三十六歌仙に入っている清原深養父
(ふかやぶ)・清原元輔(もとすけ)が知られている。
 明経道
(みょうぎょうどう。儒学)を家学とした広澄(ひろずみ)系清原氏や、後三年の役で討たれた出羽清原氏も同系とされるが、別系説もある。
 清原広澄は、儒家・舟橋
(ふなはし)家の祖である。
 広澄には、善澄
(よしずみ)という弟がいた。
 元は海
(あま)姓なので、清原家に養子に入ったのであろうか?
 兄も学者であったが、弟も伝六十六代天皇・一条天皇の時代に大学寮で助教を務めたインテリであった。
 しかし、気弱で争いが嫌いで出世欲もなかったため、貧乏で日々の生活にも事欠くほどであった。

 寛弘七年(1010)七月、そんな善澄の自宅に強盗団が押し入ってきた。
 ドドッ!ドドッ!ドドド!
「なに?なに?何が起こるの!?」
 ただならぬ足音に気づいた善澄は、縁の下に隠れて息を殺した。
 ドカドカ!ヅカヅカ!
 すぐに強盗団が床上を歩く音が伝わってきた。
「なんだ?誰もいねえのか?」
 声も聞こえてきた。
「好都合だ。金目の物を探せ!」
「へい、親分」
 ガタガタ!ドカドカ!
 バカン!ベッキー!ゲス!
 色々な物をたたいたり壊したりする音も耳に入ってきた。
(こわいよー)
 善澄はガタガタ震えた。
 手を合わせて一心に祈っていた。
(早く帰ってくれー。調度は壊されても持ち去られてもいい!だが、大事な史料や経典には手を出さないでくれー!)

 そのうちに、床上が静かになった。
(帰ってくれたか……)
 そうではなかった。
「それにしても、何にもない家だな」
 少休止しているだけであった。
「大学者の家って聞いていたが」
「てっきりお宝をため込んでいると思って来たんたが」
「チッ!俺んちより何もないじゃないか!」
 ドカン!バキーン!ハライセデトビゲリー!
「お!」
 ガラガラガラ。
「どうした?」
「物置みたいなところに唐櫃
(からびつ)がいっぱい……」
「なんだって!」
 どた!どた!どた!
「やった!これこそお宝だろう!全部引きずり出せ!」
 ズリ!ズリ!カパッ!

 善澄は頭を抱えた。
(まずい!開けられた〜)
 心の中だけで叫んだ。
(それはお宝じゃない!それこそ史料や経典を詰めてあるんだ〜!私には大事なものだが、お前たちには何の価値もないものなんだよ〜!)
 パッカン!パッカン!イヤンバカ〜ン!
 唐櫃は全部開けられたようであった。
「なんだこれは!」
「紙くずばっかじゃねーか!」
「まるでお宝みたいに隠しておきやがって!」
「腹立つ!こうしてやるっ!」
 ビリ!ビリー!ビリーバンバン!
 善澄は頭をかきむしった。
(あ〜〜〜、破られたぁぁぁ〜〜)
「ひゃっはー!みんな紙吹雪だ!」
「せいせいしたぜ!」
「こんなところにいたって仕方がねえ!者共、とっととずらかるぞっ!」

 強盗団は帰っていった。
「こわかったよ〜」
 善澄が縁の下からはい出てきた。
 そして、床上の惨状らを見て、涙が止まらなかった。
「ああっ!私が何十年も必死で集めた史料たちが〜、粉々だぁ〜」
 善澄は紙くずの海に崩れて泣いた。
「バカどもめが」
 怒りがふつふつとこみ上げてきた。
「大バカヤローどもめがっ」
 彼はワンアップした。
 スタンドアップした。
 いつもの気弱な彼は、そこにはいなかった。
「許さぬ!絶対に許さん!私は悪は見逃さない!悪人は成敗されるべきだっ!」
 善澄は勢いよく表に飛び出した。
 門まで出て叫んだ。
「待てコラーッ!」
 で、振り向いた強盗団に、こう言い放ってやった。
「テメーらのバカ面は記憶した!朝までに検非違使
に言いつけて全員逮捕してもらうから覚悟しておけっ!」

 強盗団は顔を見合わせた。
 嫌な笑みを浮かべ合った。
 かと思ったら、いっせいにこっちに走り戻ってきた。
「やばっ!」
 善澄は家の中に逃げ込むと、また縁の下に隠れることにした。
 ガン!
 でも、柱に額をしたたかに打ちつけてうずくまってしまった。
「いたい〜」
 痛がっている暇はなかった。
 一刻も早く縁の下に潜り込まなければならなかった。
「何が痛いって?」
 でも、遅かった。
 強盗団に取り囲まれてしまっていた。
 彼は泣きすがった。
「額が、額を板に打ち付けちゃって、痛いんですぅぅ〜」
 強盗団はどっと笑った。
「そうかい。痛いのかい?」
 強盗団の親分がみんなに呼びかけた。
「そんなら、みんなでもっと痛くしてやろうぜ!」
「賛成!」
「異議なし!」
 ボコ!ボコ!ボキ!ボフッ!ボブディラ〜ン!
「あかんて〜、こんな最期、あかん〜〜〜」

 善澄は殴り殺された。
 享年六十八。

[2016年10月末日執筆]
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