ホーム>バックナンバー2005>２．御苦労な極��(ごくろう)

　でも、六位蔵人である私にチャンスがないわけではありませんでした。
　六位蔵人でも、ある条件を満たせば、五位蔵人になることができました。
　それは、極��(ごくろう。六位蔵人の最年長者)を六年間務めることでした。
　そうすれば五位に昇格することができました。これを「巡爵(じゅんしゃく)」といいます。もちろん欠員があれば、そのまま五位蔵人になることもできました。
「よし、『巡爵』ねらいだ」

　私はがんばりました。
　他の蔵人がイジメに耐えかねて辞めてしまったり、出世をあきらめて帰郷してしまったり、激務に耐えかねてあの世へ逝ってしまったりしても、私はしぶとく蔵人所にしがみ付き続けてやりました。
「何をクソー！ 負けるもんかー！」
　その結果、私は念願の極�揩ﾉなることができたのです。
「よし、あと少し！ あと六年、がんばるんだーっ！」

　蔵人頭は、いつも懸命に働いている私の姿を見ていてくれました。
　時の蔵人頭は、藤原兼輔(かねすけ)様。
　御存知ありませんか？
　三十六歌仙にも名を連ねている、あの大歌人です。
　歌を見れば思い出すかもしれませんね。特に京都府南部にお住まいの方は。百人一首にもあるその名歌を載せておきましょう。

　　みかの原わきて流るるいづみ川いつみきとてか恋しかるらむ

　兼輔様は私にお声を掛けてくださいました。
「そのように陰日なたなく働いていれば、いつかきっといいことがあるぞよ」
　そして、こうささやかれました。
「近々、五位蔵人が一人、弁官(べんかん。副大臣級)に昇進するそうだ」
　つまり、五位蔵人に空きができるのです。
「へへへへへ！」
　私は思わず笑ってしまいました。
　兼輔様はポンポン肩をたたかれました。
「励めよ」
　私は爆泣しました。絶叫しました。
「ヨッシャー！ やったー！ 私の長年の苦労は、とうとう報われるのだーっ！」

　● 三十六歌仙 ●

【柿本人麻呂】 かきのもとのひとまろ (?-?)
　歌聖。下級官人。歌集『柿本人麻呂歌集』。『万葉集』に歌多し。

【紀　貫之】 きのつらゆき (?-945)
　木工権頭。望行の子。歌集『貫之集』。編『古今和歌集』『新撰和歌集』。著『土佐日記』。

【凡河内躬恒】 おおしこうちのみつね (?-?)
　淡路権掾。�ｪ利の子？ 歌集『躬恒集』。編『古今和歌集』。

【伊　勢】 いせ (877?-938?)
　女官。藤原継蔭の娘。藤原仲平・時平の恋人。宇多天皇の更衣。敦慶親王の妻。歌集『伊勢集』。

【大伴家持】 おおとものやかもち (718?-785)
　中納言・征東将軍。旅人の子。編？『万葉集』。早良親王の側近。藤原種継暗殺事件に連座。

【山部赤人】 やまべのあかひと (?-?)
　下級官人。『万葉集』に歌多し。柿本人麻呂と双璧の万葉歌人。

【在原業平】 ありわらのなりひら (825-880)
　蔵人頭。阿保親王の子。平城天皇の孫。六歌仙の一。歌集『業平集』。美男でバカで歌うまい。『伊勢物語』主人公。』

【僧正遍照】 そうじょうへんじょう (816-890)
　良岑宗貞。深草少将。蔵人頭。僧正。六歌仙の一。安世の子。桓武天皇の孫。歌集『遍照集』。『古今和歌集』に歌多し。

【素性法師】 そせいほうし (?-?)
　良岑玄利。雲林院住職。遍照の子。歌集『素性集』。『古今和歌集』に歌多し。

【紀　友則】 きのとものり (?-?)
　大内記。有友の子。貫之の従兄弟。編『古今和歌集』。歌集『友則集』。

【猿丸太夫】 さるまるだゆう (?-?)
　伝説的人物。歌集『猿丸太夫集』。

【小野小町】 おののこまち (?-?)
　六歌仙の一。小野良真の娘？ 小野篁の孫？ 絶世の美女？ 歌集『小町集』。『古今和歌集』に歌多し。

【藤原兼輔】 ふじわらのかねすけ (877-933)
　中納言。利基の子。醍醐天皇の岳父。紫式部の曽祖父。歌集『兼輔集』。『古今和歌集』等に歌多し。

【藤原朝忠】 ふじわらのあさただ (910-966)
　中納言。定方の子。笙が得意。歌集『朝忠集』。『後撰和歌集』等に歌多し。

【藤原敦忠】 ふじわらのあつただ (906-943)
　権中納言。時平の子。歌集『敦忠集』。『後撰和歌集』等に歌多し。美男で管弦が得意。

【藤原高光】 ふじわらのたかみつ (?-994)
　如覚。右近衛少将。師輔の子。歌集『高光集』。『後撰和歌集』等に歌多し。『多武峰少将物語』主人公。

【源　公忠】 みなもとのきんただ (889-948)
　右大弁。国紀の子。光孝天皇の孫。歌集『公忠集』。『後撰和歌集』等に歌多し。香や鷹狩が得意。

【壬生忠岑】 みぶのただみね (?-?)
　摂津権大目。安綱の子。編『古今和歌集』。歌集『忠岑集』。歌論『和歌体十種』(偽書説あり)。

【斎宮女御】 さいぐうのにょうご (929-985)
　徽子内親王(きしないしんのう)。斎宮。重明親王の娘。村上天皇の女御。家集『斎宮女御集』。

【大中臣頼基】 おおなかとみのよりもと (?-958)
　神祗大副。輔道？の子。歌集『頼基朝臣集』。『拾遺和歌集』等に歌多し。

【藤原敏行】 ふじわらのとしゆき (?-901)
　右兵衛督。富士麻呂の子。歌集『敏行集』。『古今和歌集』等に歌多し。書が得意。

【源　重之】 みなもとのしげゆき (?-1000)
　相模権守。兼信の子。兼忠の養子。歌集『重之集』。『拾遺和歌集』等に歌多し。

【源　宗于】 みなもとのむねゆき (?-939)
　右京大夫。是忠親王の子。光孝天皇の孫。歌集『宗于集』。『古今和歌集』等に歌多し。

【源　信明】 みなもとのさねあきら (910-970)
　陸奥守。公忠の子。中務の恋人。歌集『信明集』。『後撰和歌集』等に歌多し。管弦が得意。

【藤原清正】 ふじわらのきよただ (?-958)
　紀伊守。兼輔の子。歌集『清正集』。『後撰和歌集』等に歌多し。

【源　順】 みなもとのしたごう (911-983)
　能登守。梨壺の五人の一。挙の子。歌集『源順集』。『拾遺和歌集』等に歌多し。著『和名類聚抄』。『宇津保物語』の作者？

【藤原興風】 ふじわらのおきかぜ (?-?)
　治部大丞。道成の子。歌集『興風集』。『古今和歌集』等に歌多し。

【清原元輔】 きよはらのもとすけ (908-990)
　肥後守。梨壺の五人の一。春光の子。清少納言の父。歌集『元輔集』。編『後撰和歌集』。

【坂上是則】 さかのうえのこれのり (?-?)
　加賀介。好蔭の子。望城の父。歌集『是則集』。『古今和歌集』等に歌多し。蹴鞠が得意。

【藤原元真】 ふじわらのもとざね (?-?)
　丹波介。清国の子。歌集『藤原元真集』。『後拾遺和歌集』等に歌多し。

【小大君】 こおおぎみ・こだいのきみ (?-?)
　東宮左近。女官。藤原朝光らの恋人。馬内侍の友人。歌集『小大君集』。『拾遺和歌集』等に歌多し。

【藤原仲文】 ふじわらのなかぶみ (922-992)
　伊賀守。公葛の子。冷泉天皇の側近。清原元輔らの友人。歌集『仲文集』。『拾遺和歌集』等に歌多し。

【大中臣能宣】 おおなかとみのよしのぶ (921-991)
　神祗大副。頼基の子。梨壺の五人の一。歌集『能宣集』。編『後撰和歌集』。

【壬生忠見】 みぶのただみ (?-?)
　摂津大目。忠岑の子。歌集『忠見集』。『後撰和歌集』等に歌多し。平兼盛に歌合戦で敗れて悶死。

【平　兼盛】 たいらのかねもり (?-990)
　駿河守。篤行の子。大中臣能宣らの友人。歌集『兼盛集』。『後撰和歌集』等に歌多し。壬生忠見との歌合戦は有名。

【中　務】 なかつかさ (?-?)
　敦慶親王と伊勢の娘。宇多天皇の孫。源信明・藤原実頼らの恋人。歌集『中務集』。『後撰和歌集』等に歌多し。