3.第二回衆議院議員総選挙 〜 選挙大干渉!

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第四十三回衆議院議員総選挙
1.第一議会 〜 第一次山県有朋内閣
2.第二議会 〜 第一次松方正義内閣
3.第二回衆議院議員総選挙 〜 選挙大干渉

民党の連中を絶対に当選させるな」
 中央からの指令を受けた各知事・警部長らは、各郡長・警察署長らを集めて作戦を会議、右翼・暴力団・チンピラ・不良、その他無頼のやからを募ると、木刀・日本刀などの武器を配布、吏党候補者とともに徒党を組ませて選挙運動をさせた。

「なんて物騒な選挙運動だ」
「まるで暴走族か軍隊の行進じゃないか」
 徒党の連中は、大人を見かけると選挙権の有無を問い、
「今度の選挙は吏党に投票してください!」
 と、お願い、
「絶対投票するんだぞ!」
民党に入れたら、ぶっ殺すぞ!」
 などと強制・恐喝する一方で、金品も配った。
「えへへ。これ、知事からの贈り物です」
「つまらないものですけど、吏党をお願いします」
「もっと欲しかったら、吏党の選挙事務所へお気軽にどうぞ」

 そして、民党の候補者を見かけたら、襲撃である。
「あっ! 自由党のヤツらだ!」
改進党のヤツらだ!」
「それっ! 痛い目にあわせてやれ!」
 民党の候補者が逃げ出すと、即座に追撃。
「逃がすな! 追え!」
「選挙事務所に逃げ込んだぞ!」
「なぐり込め!」
「ついでに事務所もぶっ壊せ!」

 連中の行動はさらにエスカレート。白昼酒をあおって集団徘徊(はいかい)
 連中は壇上で演説している弁士を発見した。
「あっ、民党の弁士!」
 弁士は否定した。
「違う! 拙者は単なる講談師だって!」
「その顔のどこが好男子だ! この、すっとこどっこい!」
「あからさまなウソ付くところを見ると、民党の弁士に決まっている!」
「殺しておしまい!」
 ブス!
「ぎゃあー!」
 高知県では、こうして選挙と全く関係ない講談師も殺されてしまった。
 また同県では、吏党を迎え撃った民党との間で「斗賀野
(とがの)合戦」なる大規模な戦闘も発生している。

 民党側は警察に訴えた。
吏党の連中はむちゃくちゃじゃないか! 警察はなぜ黙っているんだ!」
 が、吏党とつるんでいる警察はとぼける。
吏党がいったい何をしたって言うんだね?」
「とぼけるな! 妨害! 恐喝! 買収! 暴行! 傷害! 殺人! ありとあらゆる悪行をしでかしているじゃないか!」
「聞いてないね〜」
「聞いてないわけはない! 吏党は悪だ! 政府も悪だっ!」
「君、政府や吏党を侮辱すると、逮捕しちゃうよ」

 吏党の悪行三昧に、善良な選挙民は憤った。
「これじゃあ民党の候補者がかわいそうだ。よし、民党に投票してやろう」
 と、覚悟を決めて投票に行くと、投票所の前でコワモテの暴漢たちが木刀や日本刀を担いで取り囲む。

 暴漢たちは白刃を突きつけて脅した。
「貴様、そんな悲壮な顔して、まさかまさか民党の候補者に投票するんじゃねーだろうな?」
「きっ、きっ、君たちみたいな無頼のやからを雇う党になんか、絶対投票するものか!」
「やかましい!」
 ずびゃ!
「痛い〜。手がない〜」
吏党に投票しなかったら、今度は首が飛ぶぞ!」
「そんな〜」

 中には幾重もの暴漢たちの壁を突破した、勇敢な選挙民もいた。
「どんなもんだい」
 ところが、投票しようにも投票用紙も投票箱もない。
「投票用紙は? 投票箱は?」
 聞いてみると、選挙管理委員は、
「なくなっちゃった」
 と、笑う。これでは投票しようにも、できるはずなかった。

 この結果、立憲改進党創立者・大隈重信の本拠である佐賀県では、死者十名、負傷者六十六名を出し、前職の松田正久(まつだまさひさ)・武富時敏(たけとみときとし)ら全員が落選してしまった。
 また、自由党創立者・板垣退助の本拠である高知県でも、死者八名・負傷者九十二名を出し、片岡健吉・林有造
(はやしゆうぞう)といった有力幹部が相次いで落選するという大波乱が起こってしまった(後に片岡と林は不正を訴え出て、当選が認められた)第三議会勢力図

 それにもかかわらず、吏党は勝利を得ることはできなかった。
 明治二十五年(1892)五月六日に始まった第三議会における政党別の勢力分布は右の通りである。 つまり、選挙結果は百六十三対百三十七で、またしても民党が過半数を占めたのであった。

 山県は悔しがった。
「これだけやっても負けたか……」
 伊藤は渋い顔をした。
「いくらなんでも、あれはやりすぎだ。民党の連中は黙っていまい」
 これ以前の三月、干渉を指揮した内相・品川弥二郎は、伊藤の圧力によって解任された。

 案の定、議会が始まると民党は逆襲に出た。
「品川だけではなく、次官の白根も解任せよ!」
松方! この傷を見ろ! 貴様が扇動した暴徒どもによってつけられた傷だ!」
「暴力で自由を封じれるとでも思っているのか!」
「暴力内閣は即刻退陣せよ!」

 たまりかねた松方内閣は八月に対陣、内務次官・白根専一、内務省警保局長(けいほきょくちょう。今の警視総監)・小松原英太郎(こまつばらえいたろう)、佐賀県知事・樺山資雄(かばやますけお)、高知県知事・調所広丈(ずしょひろたけ)らも更迭されたのである。

[2003年10月末日執筆]
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