2.唐のオンナ | ||||||||||||||
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下道真備は真っ赤なウソをついていた。
真備は唐にオンナと幼い息子を残してきたのである。
『キット、帰ッテキテネ』
『ああ。この子が乳離れした頃に迎えに来る。そして、日本で一緒に暮らそう』
『キットダヨ〜』
『ああ。それまでは遣唐使に手紙を持たせるから』
唐のオンナは真備の言葉を信じて待っていた。
遣唐使が来ると、
「マキビハ?」
「マキビノ手紙ハ?」
と、日本人に尋ねて回った。
しかし、息子が乳離れしても真備は来ず、手紙すらよこさなかった。
「ウソツキ!」
唐のオンナは怒った。
息子を連れて、海に出て、崖(がけ)の端から日本の方に向かって叫んだ。
「ウソツキー!小日本ー!」
息子が母のそでを引っ張った。
「モウ、カエローヨ〜」
すると、唐のオンナは、息子の首に何かを書いたお札を結び付けて聞いた。
「ボーヤ。『高イ高イ』シテアゲヨッカ?」
「イヤダヨー」
息子は嫌がったが、
「ア、ソウ。ヤッテホシーノ」
唐のオンナは勝手に解釈して無理やり息子を放り上げた。
ぽーい!
「高イ高イー!」
唐のオンナは怪力であった。
ぽーい!きゃっち!
ぽーい!きゃっち!
ぽーい!きゃっち!
何度か息子を放り上げて受け止めた後、最後は力いっぱい海に向かって放り上げた。
「エーイ!他界他界ー!!」
ヒューン!
高〜く舞い上がって落ちてきた息子の下には、もはや母の手はなかった。
「アレー!カーチャーン!」
ドップウ〜ン!
息子は海に落ちて見えなくなった。