★ 絶世の美女・小野小町にもストーカーがいた!? 〜すけこまし・深草少将、通う通う!! |
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きっかけは、タマだった。
平成十五年(2003)五月初め、超有名野良アザラシとの関連をきっかけに、その妙な団体は一躍日本中にその名をとどろかせた。
新興宗教団体「千乃正法会(ちのしょうほうかい。千乃裕子会長)」の電磁波研究班「パナウェーブ研究所」である。
全身白ずくめという月光仮面ばりの異様な格好、クルマに張りまくった渦巻きマークのステッカー、「スカラー波」なる電磁波から逃げ回るという習性、でっかい彗星(すいせい)が落ちてくるとかいう突拍子もない予言(結局落ちてこなかった)などなど、なんだか笑えてくるが、佐藤英彦(さとうひでひこ)警察庁長官の、
「オウムの初期に似ている」
には、日本中の笑いが止まってしまった。
平成六〜七年(1994〜1995)、当時のオウム真理教(後のアーレフ)が一連のオウム事件を引き起こし、日本中を恐怖のどん底に陥れたことは、いまだ記憶に新しい。先月(平成十五年五月)も、事件の首魁(しゅかい)・麻原彰晃(あさはらしょうこう。本名・松本智津夫)に「犯罪史上最も凶悪」として死刑が求刑されたばかりである(平成十八年死刑確定)。
「そのオウムに似た変な団体が現れた!」
人々はこの変な団体に眉(まゆ)をひそめ、行く先々で嫌がり、追い出し、通せんぼした。
一方、マスコミはいっせいに飛びついた。
ちょうどイラク戦争も終わってネタに困っていた折である。SARS(サーズ。重症急性呼吸器症候群)も出回り始めたが、中国へ出向いて病人の生中継をしにいくわけにもいかない。
そこへもって、おかしな白装束集団が颯爽(さっそう)と御登場である。
「ほれ行け! ほれ行け!」
各社の編集長は、部下の記者どもをけしかけた。野次馬たちも押し寄せ、たちまち岐阜県や長野県の山の中の人口密度は爆発した。
「変な連中が来て困ってるんですよ〜」
でも、地元の商店には、思いがけなくボーナスが入ってきたはずだ。
(カモは気味悪いが、ネギをしょってくるでおいしいわ。えへへ)
思っても、口にすれば袋たたきなので、内緒内緒。
白装束集団は四月末に福井県を発し、岐阜・長野・山梨各県を遅走、五月中旬に元の鞘(さや)へ収まった。
彼らのクルマに「ストーカー車追跡中」と書かれたものがあったが、追跡されているのは彼らのほうではないか。
パナウェーブ研究所について、評論家たちは口々に言った。
「放っておけば、防御から攻撃に転じる可能性がある」
その可能性がないとはいえないが、放っておくよりも、過剰な警戒によって変貌(へんぼう)する可能性のほうが高いであろう。誰でも人につけられるのは気分のいいことではない。ストーカーも嫌いであろう。追い詰めればどんな善良な人間でも頭がおかしくなり、凶暴化することもありうることである。
私個人の意見としては(断言するほど自信もないが)、彼らはオウムのようなテロ集団にはならないと思う。野良アザラシにこだわったり、イヌやネコなどを飼いまくったりしている団体が、国家転覆をたくらむなど、とうてい思えないのである。
「放っておけば、防御から攻撃に転じる可能性がある」
むしろこのことは、今の日本自体にいえることである。日本はテロや北朝鮮への警戒心から、再び軍国主義への道を突き進んで行きはしないであろうか?
* * *
今回は、絶世の美女・小野小町のストーカーかも知れなかった貴公子(プリンス)の物語を紹介する。
有名な「深草少将(ふかくさしょうしょう)百日通い伝説」である。
「私の家に百日連続で通ってこられたら、あなたの思いを遂げさせてあげる」
「本当か!」
小町に言われた深草少将は、雪の日も風の日もせっせと通い続けるが、あわれ百日目に死んじゃったというあの伝説である。
「ああ、あれか。知ってるから、読まなくていいや」
そう言われる方にはお勧めしないが、この物語は伝説どおりには終わらないということを付け足しておく。
世にストーカーに悩まされている人は、案外多いかもしれない。
平成十二年(2000)に「ストーカー規制法」が施行されたが、付きまとわれている側から見れば、まだまだ甘いとしかいいようがないであろう。
チョウが花に飛んでいくのは宿命である。
しつこいチョウをかわすには、別の花をあてがうか、無視するか、逃げるしかないであろう。
それでも寄ってくるチョウに対しては、最終的な手段は二者択一である。
自分が花でなくなるか、この物語で小町がとる手段しかないと思われる。
「こんなに気をつけているのに」
防いでも防いでも無駄な場合は、攻撃も考えよう。
なんといっても攻撃は最大の防御である。正当防衛は世論や法律が擁護してくれるであろう。
標的はあきらめるべきではない。価値のある人間には、勝ち残る義務がある。
ストーカーは標的に価値を見出して追うが、標的はストーカーに対して、何ら価値を見出していない。
価値のある人間は、他を犠牲にしてでも勝ち残るべきである。
人間としてではない。それが生物としての、最低限の本能ではあるまいか?
[2003年5月末日執筆]
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参考文献はコチラ
【良峰(良岑)宗貞】よしみねのむねさだ。深草少将。後の遍照(遍昭)。蔵人頭。安世の子。
【良峰(良岑)安世】よしみねのやすよ。大納言。宗貞の父。桓武天皇の皇子。
【仁明天皇】にんみょうてんのう。小野小町の夫。宗貞の恋敵・友人。
【 侍 女 】小野小町の侍女。
【刺客Z,Y,X,……∞】小町が雇った刺客。腕が立つ。
【小野小町】おののこまち。仁明天皇の更衣。絶世の美女。宗貞の標的。